研究課題/領域番号 |
18K12023
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
木村 健太 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 主任研究員 (40589272)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 時間予測 / 報酬 / 事象関連脳電位 / 学習 / 強化学習 |
研究実績の概要 |
本研究は、時間情報が報酬刺激処理へ統合される認知神経科学的モデルの構築を目指すことである。2018年度の研究では、行動と結果の間の遅延時間の分布が報酬刺激の処理へ及ぼす影響を実験的に検討することで、報酬刺激の処理が経験される遅延時間の頻度に基づいて柔軟に調節されていることを明らかにした。2019年度の研究では、時間情報が報酬刺激処理に影響を及ぼす認知神経科学的メカニズムを明らかにすることを目的とした。このため、選択行動が視覚的な金銭結果(報酬、罰)を生起する確率学習課題において、選択行動と金銭結果の間の遅延時間を6秒に設定した時間予測不能条件、遅延時間は6秒だが1秒ごとに音刺激が提示される時間予測可能条件を設定し、時間予測の有無が脳波に及ぼす影響を検討した。その結果、時間予測可能条件では、時間予測不能条件に比べて、金銭結果提示時後約250 ms後に観察される報酬陽性電位の振幅が大きく、視覚情報の処理を反映する初期成分においては条件間の差は観察されなかった。このことは、時間予測が行動結果に対する情報処理の入力段階というよりは、良し悪しの評価以降の情報処理段階に影響を及ぼす可能性を示唆する。加えて、時間周波数解析の結果、金銭結果提示はθ波のパワー値の増加と位相の同期を生じたものの、時間予測はこれらに影響を及ぼさなかった。このことは、時間予測が行動のエラー処理と関連するθ波の活動というより報酬処理と関連するΔ帯域の神経活動を変調することを示唆する。これらに加え、確率学習課題における選択行動と結果、そして時間予測の有無を基に、2020年度に実施する予定であった計算論的モデルの構築を一部実施した。これまでのところ探索的ではあるものの、選択行動と結果のデータ系列に対して強化学習を用いたモデルベース解析を実施したところ、時間予測を取り入れたモデルの説明率が高いことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の研究では、当所予定していた実験は実施できたものの、一部、機能的MRIを用いた脳領域の検討を実施できなかった。これは、所内の3T-MRIの使用にかかる倫理審査に遅延が生じたためである。このため、当初、2020年度に予定していた行動データに対するモデルベース解析の実施を早めて実施することにより、研究期間全体での進行に遅延が生じないよう工夫している。このため、当初の研究計画と比べて、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究計画で予定しているとおり、時間予測による報酬刺激処理の変容の背後にある計算論的モデルの構築を目指す。具体的には、時間予測が報酬学習における選択行動をどのように調節するのかを検証する。このため、強化学習によるモデルベース解析を用い、各種モデルを定量的に比較する計算論的アプローチをとる。このアプローチの有効性の一部は、先行して2019年度に確認している。一方、2019年度に実施できなかった、機能的MRIを用いた報酬領域の脳活動計測を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、2019年度では予定していたMRI実験の実施を取りやめた関係で、そこで必要となる予定であったデバイスの作成、購入費用の必要がなくなった。2020年度にはMRI実験を予定していることから、2019年度の未使用額は2020年度の実験関連費用として使用することを計画している。
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