本研究では、時間情報が報酬刺激処理へ統合される認知神経科学的モデルの構築を目指すことである。2018年度から2019年度の研究では、報酬刺激の処理が経験される遅延時間の頻度に基づいて柔軟に調節されていること、遅延時間中に時間予測を高める手がかり刺激を提示することで、報酬刺激の処理の不全を防ぐことができることを明らかにした。加えて、2020年度と2021年度の研究では、時間情報と密接に関連する心臓の周期的活動と報酬学習中の選択行動との関連性についての研究を実施した。その結果、心臓の収縮期に選択するべき弁別刺激が呈示された際には、より報酬依存的な学習行動を示すことを強化学習によるモデルベース解析を用いることで明らかにした。このことは、報酬学習中に自然なゆらぎを生じる心臓の活動およびそれにより生じる内受容感覚が時間予測と相互作用することで学習に影響を及ぼすことを示す。2022年度には、これらの研究知見に立脚し、報酬刺激に対する時間予測を高めた際に学習行動がどのように変化するかを検討した。実験では、遅延時間中に時間予測を高める手がかり刺激を提示することで、報酬刺激の処理を促進する操作を行い、その際の行動データを解析した。その結果、手がかり刺激の提示は学習行動には影響を与えなかったことから、時間情報が報酬刺激処理へ及ぼす作用と学習行動に及ぼす影響には異なる認知・感情的メカニズムが関与している可能性が示された。
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