研究課題/領域番号 |
18K12026
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
湯浅 哲也 山形大学, 大学院理工学研究科, 教授 (30240146)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 蛍光X線 / ナノ粒子 / コンピューテッドトモグラフィ / 前臨床 / 放射光 |
研究実績の概要 |
本年度は,マルチピンホールで得られた投影画像間のキャリブレーション補正を行うための手法を開発した.また,ビーム強度の不均一性を補正する再構成方法を考案した.これまでは直径10mm程度のサンプルを用いてきたが,ラット頭部を計測するためには直径25~30mmのサンプルを測定する必要がある.この際,散乱線が著しく増大するため,良好な再構成画像を得るためには,従来よりも高い精度の補正方法を伴う再構成を行う必要がある. キャリブレーション補正では,撮像モデルを従来よりも精密化し,キャリブレーション用特製ファントムにより得られた実験データを用いて,モデルパラメータを最小二乗法により決定した.これにより,対象の3次元座標とカメラの画素位置の対応が従来よりも精度高く行える.強度補正では,サンプルを置かずに測定したビームプロファイルを再構成アルゴリズムに反映させた.これにより,入射ビーム強度に不均一性に対してロバストな再構成が可能になる. 提案手法の有効性を示すために,高エネルギー加速器研究機構のビームラインPF-ARNE7Aにおいてマルチピンホール蛍光X線CTシステムを構築し実験を行った.本システムを用いて,まず,直径25mmの円筒状のアクリルファントムを撮像した.ファントムには3つの孔があり,中にヨウ素希薄溶液を満たしてある.実験により,著しい散乱線により投影画像のS/Nは低下したものの,0.1mg/mlのヨウ素溶液の描出に成功した.これにより補正方法の有効性を示すことができた. 次に,骨付き鶏肉にヨウ素希薄溶液を封入した小容器を包埋した生体模擬サンプルを撮像した.ヨウ素濃度0.1mg/mlの溶液を描出できた.提案した補正方法は生体においても有効であることを示すことができた.また,当該濃度は,通常の透過型X線CTでは描出できない.この結果は蛍光X線CTの優位性を改めて示すものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまではマウス頭部を想定した対象(直径約10mm)を計測していたが,対象をラット頭部に広げるためには,直径約25~30mmの対象を計測する必要がある.対象の体積が増大することにより,発生する散乱X線が著しく増大する.このため,従来よりも精度の高い再構成方法を考案する必要があった.本年度開発した補正手法は,今後ラット頭部を計測するための重要な基礎技術となる. しかし,当初想定していたガドリニウムナノ粒子と金ナノ粒子の撮像は今後難しくなることが予想される.これは,高エネルギー加速器研究機構の運営方針が変わり,これまでの6.5GeV運転から5.0GeV運転への移行によるものである.これにより,ガドリニウムのK線および金のL線を励起できるエネルギーの入射X線を得ることができなくなる可能性がある.この場合は,ヨウ素をターゲットにして研究を遂行してゆく.ヨウ素ナノ粒子も医学的に有効であるという報告もあるので,これまでの研究計画の大幅な修正は必要ないものと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の成果により,ラット頭部に相当する直径25mmのサンプルを計測できるという目途はついた.実験により得られたヨウ素溶液の最小検出濃度は0.1mg/mlであったが,in vivoで観察するためには少なくとも0.05mg/mlのヨウ素濃度を検出する必要がある.直径10mmのサンプルでは0.05mg/mlは検出可能であるが,サンプルの体積が大きくなり散乱線が増大したことで投影画像のS/Nが劣化し,ひいては最小検出濃度の劣化したものである.したがって,目標の最小検出濃度とを実現するためには,散乱線補正は必要不可欠である.今年度は散乱線補正について重点的に考察してゆく予定である.
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