研究課題/領域番号 |
18K12038
|
研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
武田 行正 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40735552)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | ダイレクトリプログラミング / 再生医療 / 低分子化合物 / シグナル伝達経路 / 神経幹細胞 |
研究実績の概要 |
本研究では、遺伝子の導入を行わず、低分子化合物を用いて、ヒト線維芽細胞から必要性の高い再生医療用細胞のダイレクトリプログラミングを目指す。今年度は初年度に引き続き、研究実施計画に則り、ヒト線維芽細胞に対し低分子化合物の組み合わせとそれぞれの細胞に特異的なサイトカインを含む分化誘導培地を用いて、濃度と培養時間を変化させながら条件検討した。化合物の候補としては、すでに我々の研究室でダイレクトリプログラミングに使用している化合物に加え、それぞれ神経幹細胞、心筋細胞、肝細胞、膵beta細胞の機能および分化に重要であると報告されているもの、あるいはその可能性のあるものを使用した。ヒト線維芽細胞を数週間培養した後、目的の細胞に特徴的な形態変化と特異的な遺伝子の発現について詳細に解析を行った。その結果、これまで、神経幹細胞に特異的な遺伝子であるSox2やNestinといった遺伝子の発現が活性化していることが判明していた。今年度は、さらに心筋細胞や肝細胞へ部分的な誘導が進んでいることが確認された。これらの細胞では、血清の存在が誘導を阻害している可能性が示唆されたため、無血清培地を新たに開発した。無血清培地による誘導では、低分子化合物やサイトカインがそれぞれの細胞に対し、血清存在下とは異なる応答を示した。特に、TGFbetaシグナル経路が既に抑制されており、これに関連する阻害剤が無血清培地では必要なく、これは線維芽細胞から他の細胞の誘導に有利に働くことが推測される。また、当初計画していた細胞とは別に、無血清培地を用いて褐色脂肪細胞が最小限の化合物の組み合わせで効率的に誘導されることが判明した。このような無血清培地の使用は、創薬研究や臨床応用を行う上で必須な条件となるため重要である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、概ね計画通り順調に進展している。今年度は、初年度に引き続き、低分子化合物によるダイレクトリプログラミングのプロトコールについて詳細に検討を行った。その結果、初年度の神経幹細胞に引き続き、心筋細胞や肝細胞に特徴的な形態の変化や遺伝子の発現を確認し、これらの細胞へ部分的に誘導が進んでいることが判明した。また、これらの細胞に使用する誘導培地についても、血清を使用しない無血清培地を新たに開発し、誘導への効果を検証した。その結果、特定の細胞への誘導に対し、無血清培地が有利に働くことが判明した。また無血清培地の使用は、誘導される細胞を用いた創薬研究や臨床応用に必須な条件であり、これを用いたダイレクトリプログラミングが進展したことの意義は大きいと考えられる。低分子化合物のみによるヒト体細胞から神経幹細胞、心筋細胞、肝細胞、膵beta細胞、褐色脂肪細胞などへの誘導は、まだほとんど報告されていない。これらの研究状況と結果を踏まえ、本研究は概ね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
来年度は、引き続き低分子化合物によるダイレクトリプログラミングのプロトコールについて検討を行う。それぞれ部分的に誘導の進んだ細胞種に対し、低分子化合物の組み合わせ、培地組成、サイトカインの種類について最適化を行う。また、実施計画に則り、線維芽細胞以外の体細胞である脂肪組織由来および骨髄由来間葉系幹細胞についても、同様な手法で誘導を試みる。最終的に、年齢や性別の異なる複数のヒト線維芽細胞株に対し、最も効率よく誘導可能な低分子化合物の組み合わせと培養条件について決定する。誘導法の確立した細胞に対し、機能解析と網羅的な遺伝子発現解析を行い、細胞のキャラクタリゼーションを完了させる。同時にiPS細胞などの幹細胞から目的の細胞を分化させ、上記の機能解析と発現解析の比較対象として使用する。またマウスへの移植によって、生体内での生着と機能性を確認する。最終年度では、特に神経幹細胞、心筋細胞、肝細胞、褐色脂肪細胞についてダイレクトリプログラミングを確立することを目標とする。そして、これまでの研究成果をまとめ、学術雑誌への投稿を進めていく。
|