本研究課題では、卵子透明帯(ZP)複屈折の経時的変化に着目し、卵子品質を定量的かつ安全に診断する基準を見いだすことを最終目標としている。令和2年度には、平成30年度に新たに開発された透過型レーザー顕微鏡を用いて、撮像したZP複屈折分布から任意の光路長に相当する屈折率を算出するアルゴリズムを開発し、次いで複屈折測定法の定量性および安全性の評価を、マウス卵子をモデルとして実施する予定であった。しかしながら、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて緊急事態宣言が発令され、不測の事態への対応で研究エフォートが減るなか、研究も多くをリモートで実施せざるを得ない状況となり、当初の予定通りに研究を遂行できなかった。特に、透過型レーザー顕微鏡を試作した共同研究企業(東京)への往来が制限されたため、研究室において独自に偏光観察用の顕微鏡を試作して研究を進めたところに研究内容の大幅な変更があった。基本的には偏光顕微鏡の原理と同じであるが、光路には偏光子として左円偏光板を、さらに検光子に複屈折性の液晶板を挿入し、楕円率を電子制御して平均を求め画面上に表示するようにした。測定試料には、ブタ卵巣から採取したGV卵を使用した。(ブタ卵巣は食肉センターで入手)。GV卵子の明視野像および複屈折像との対応から、透明帯および細胞内紡錘体に複屈折性を帯びている様子が明瞭に観察された。加えて、透明帯の外側層に複屈折性は見られず、内側層にのみk複屈折性が観察された。一方で、透明帯の部位により大きく複屈折像の輝度が変わることから、(1)透明帯部位、(2)卵子の回転位置、(3)光路長とレターダンスのそれぞれにおいて、複屈折性定量評価のために方法について検討した。
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