研究課題/領域番号 |
18K12043
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
島谷 祐一 東京都市大学, 理工学部, 准教授 (20154263)
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研究分担者 |
小橋 基 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 准教授 (80161967)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 無線電力伝送 / 磁気共鳴 / 埋め込み型医療機器 / 共振回路 / 同調方法 |
研究実績の概要 |
本研究は、体内完全埋め込み型医療機器の共通問題である電源供給問題について、研究代表者らが提唱している方法に基づき、その実証実験を進めようとするものである。体外から体内深部に埋め込まれた医療機器に無線電力伝送を行おうとする際には、「磁気共鳴型無線電力伝送」が有利であると考えられる。この電力伝送方式では体外に送電用共振回路、体内に受電用共振回路を置き、両者の共振周波数を一致させて共鳴させる必要があるのだが、体内環境では受信側の共振周波数が変化してしまうため再同調を行う必要がある。しかし受信回路が体動で常に位置や角度が変化するため従来の同調方法を用いることが困難である。この問題を解決するため研究代表者らは「同調時出力電圧推定法」という方法を考案し理論構築を行った。本研究課題ではその理論の実証実験を行うことを目的とし、同調回路を試作して実用性を検証することを行なっている。2019年度までに、1)埋め込み用受信コイルおよび受信回路の設計と製作、2)同調回路の設計と製作、3)ラット腹腔内への慢性埋め込みによる受診コイルの、インダクタンス、抵抗、無負荷Q値の変化測定による問題点の抽出、などを行った。しかし昨年度は新型コロナウイルス感染症の流行に伴う緊急事態宣言の影響を受け、主に動物実験を中心に計画していた研究を十分に行うことができず、当初の目的を達成するに至らなかった。このため研究期間の延長を申請し研究を継続するとともに、コロナ禍が長引くことを想定して一部研究計画を見直すことにした。2020年度はすべての学会がオンライン開催となった。国内学会2件、国際学会1件のオンライン発表を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度の研究計画では、1)同調動作の自動化に関して、外部同調回路の設計変更とその制御アルゴリズムを調整する。2)動物実験とファントムを用いた実験によって、同調回路の実際の動作を検証しつつ、試行錯誤で回路の改良を重ねる。3)回路素子の探索とそれを用いた試作を繰り返し、受信側同調回路を体内埋め込み可能な大きさまで小型化する試みを行う。4)送信側周波数探査を用いた新たな同調理論に基づく試作回路を開発する。といった計画であった。しかし、昨年度の新型コロナウイルス感染症の流行に伴う2度の緊急事態宣言によって出勤自粛等を求められた結果、研究に十分な時間を取ることができず、また動物飼育の管理上、慢性埋め込み実験はほとんど行うことができなかった。このため研究の遂行に遅れを生じた。具体的には、1)の同調動作自動化に関しては設計変更と実機製作の繰り返しに遅延が生じ、結合係数の動的変化に対するキャパシタ切り替えのアルゴリズムの最適化が不完全なままである。2)慢性動物実験ができない状況が続いたため、体内環境の長期変動に対する新たな知見が取得できず、それに基づくファントム設計の進展もなかった。3)新たな同調理論に基づく試作回路の開発は、年度途中から開発環境を自宅に移行することで着手することができた。年度末までに最初の回路設計を終え、試作機の製作に着手することができた。この他、初年度に得られた生体内への電力送信データ等を元に生体内部環境の静的な電気化学的パラメータを探索し、生体内の受信回路に最適な静的線形等価回路を決定することができた。
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今後の研究の推進方策 |
延長年度の令和3年度においては、令和2年度に遂行できなかった実験による研究を進める計画である。具体的には、1)受信側キャパシタ切り替え方式による同調回路の設計と試作を進め、高速で安定した同調動作を実現するアルゴリズムの最適化を目指す。これにはとりあえず装置の小型化は考慮しないで、PCによる測定データ収集とIGORを用いたプログラム開発の環境下での実験を進め、とにかく同調動作の最適化に目標を置く計画である。その上で、2)動物実験を行なってラット腹腔内に受信コイルを埋め込み、体動による短期的な結合係数の変化や体内環境でのコイル電気特性の変化が生じる条件下で電力送信実験を行い、その結果を1)の同調動作の最適化にフィードバックさせる。ただし、この計画の執筆時点でもコロナ禍の収束に関しては全く予測が立たない状態であることから、令和3年度においても動物実験が行えない場合を想定し代替計画を設けることにする。すなわち、短期的な体動による結合係数の変化についてはヒト体動によるシミュレーションを行い、体内環境の変化については今までの動物実験の結果から推定を行うことで、結合係数と共振周波数が経時的に変化する動的等価電子回路と動的生体ファントムを製作する。そしてそれらを組み合わせることによって体内埋め込み状態を再現し、この装置を用いて同調動作の最適化を進める。また、昨年度着手した送信側電流観測に基づく同調回路の開発についても、上記の動物実験あるいは製作した動的等価装置がそのまま使用できるため、並行して開発を進める計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の流行に伴う2度の緊急事態宣言によって研究の進行が遅れた。このため試作回路製作用電子部品と動物実験用消耗品の購入予算に若干の使い残しが生じた。この繰越し費は延長年度に計画している試作回路の製作と動物実験に必要な消耗品の購入に当てる計画である。
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