研究課題/領域番号 |
18K12044
|
研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
足立 善昭 金沢工業大学, 先端電子技術応用研究所, 教授 (80308585)
|
研究分担者 |
川端 茂徳 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, ジョイントリサーチ講座教授 (50396975)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 磁気センサ / 生体磁気 |
研究実績の概要 |
本研究は、高感度な磁気センサを体表面に装着し、ウエアラブルな生体磁気計測を実現する際に立ちはだかると予想される2つの基本的な問題の解決、すなわち1.磁気センサ自体の物理的な揺れに伴う揺動ノイズの軽減と、2.磁場源解析のための磁気センサと体表面の相対位置の準動的検知を目的とする。 2019年度は、前年度に引き続き、研究で使用する多チャンネルのフラックスゲート磁束計の試作と動作試験を行った。前年度に試作した基本波直交型フラックスゲート磁束計プローブを20ch分作成し、そのうち4chを実際に駆動回路に接続して動作試験を実施した。 本研究で開発するウエアラブル生体磁気計測の磁気センサアレイは、多チャンネルのセンサアレイを複数のサブアレイに分割し、それぞれのサブアレイの相対位置を検出することで、センサアレイ全体の位置情報を得る仕組みである。サブアレイ上に実装された個々のセンサアレイの位置は固定した上で、サブアレイ間の相対位置が自由に変化するような状態でサブアレイどうしや対象物との相対位置を検出するようになっている。このような相対位置・向きの検出に適用可能な三角形型マーカーコイルの試作、試験を行った。 室温磁気センサを生体磁気計測に適用するメリットの一つとして、センサを対象物に近接させることで、比較的大きな信号が得られるという点があるが、センサの感度領域が無視できない大きさを持つ場合、センサ感度の角度依存性がcosθに従わなくなる。2019年度は対象物が室温磁気センサのごく近傍にある場合のセンサ感度の角度依存性の評価方法と磁場源解析に必要なセンサ感度分布のモデルを検討した。 上記の測定システムの開発と並行して、測定対象となる筋肉磁場の測定実験を東京医科歯科大学に設置されたSQUID磁束計システムにて実施し、測定された磁場データをもとに筋肉磁場の磁場源モデルの検討を引き続き行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
生体磁気計測の磁場源解析では磁気センサと対象となる生体の相対位置決めが重要である。本研究ではウエアラブルな生体磁気計測を実現する上で、センサアレイを複数のサブアレイに分割してサブアレイ上のセンサ位置を固定し、サブアレイ間の相対位置をリアルタイムで求め、計算負荷の軽減を図る。2019年度はサブアレイ間の相対位置の検出に適用可能な三角形型マーカーコイルを試作した。従来、相対位置、向きを決定するために少なくとも3つのマーカーコイルを要していたが、三角形型マーカーコイルはこれを1つのコイルで置き換えることができる。従来の脳磁計で頭部モデルに試作した三角形型マーカーコイルを装着して、動作試験を行い、複数のマーカーコイルと同等の位置推定ができることを確認した。 室温磁気センサによる生体磁気計測は、従来のSQUIDによる計測と異なり、低温容器が必要ないので、磁場源にセンサを近接させることができ、比較的大きな信号強度が得られるという利点がある。しかし、センサと対象物の距離が近くなると、センサの感度領域の大きさが無視できなくなり、感度領域内の磁場を一様と見なすことができなくなる。その結果、センサの感度領域を点で代表させることがもはやできなくなり、センサの出力がいわゆるcosθ則に従わなくなる。本研究で開発中の直交型フラックスゲートは感度領域の長さが40mmあるため、体表面から比較的浅いところに存在する筋肉を対象とする場合、センサの感度領域の大きさが無視できなくなる。そこで、2019年度はセンサ感度の角度依存性の評価方法と磁場源解析に必要なセンサ感度分布のモデルを、フラックスゲートと同様に数10mmの感度領域をもつMR磁気センサを用いて検討した。 一方、フラックスゲートの多チャンネル化、低雑音化についてはアモルファス磁性体ワイヤコアと銅ワイヤの接合安定化に苦労し、進捗は予定よりも遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度は多チャンネルフラックスゲート自体の多チャンネル化、低雑音化の進捗は遅れがちであったが、ウエアラブルな生体磁気計測を実現する上で重要なセンサの相対位置決めに関連する技術開発が進められた。令和2年度は、アモルファス磁性体ワイヤコアと銅ワイヤの接合の安定性を改善し、フラックスゲート磁束計の多チャンネル化をさらに進め、複数のサブアレイに実装したシステムを試作し、性能評価を行う。サブアレイには2019年度に開発した三角形型マーカーコイルを実装し、初年度に開発した磁気センサ位置検知のためのコイルシステムと組み合わせて、センサアレイが測定中に動いた場合の連続位置検出を試みる。 前年度の検討により、磁場源がセンサ近傍に存在し、センサ出力がいわゆるcosθ則に従わない場合、センサの感度の角度依存性を明らかにすることは、センサ位置推定の精度を向上させるために重要であることがわかった。今年度はこれを考慮し、センサの感度領域を考慮した校正方法やセンサ位置推定方法を確立し、フラックスゲート磁束計の校正を行い、感度や磁場分解能の評価を実施する。これらの実験は既設の磁気シールドルーム内で実施する。 センサアレイが地磁気中で動いたときに、磁気センサ自体の物理的な揺れに応じた揺動ノイズの低減アルゴリズムを、初年度に開発した24bitデータ収録系に実装し、地磁気下での動作試験を実施する。その際、測定対象としては測定が比較的簡便な上腕、もしくは大腿の筋肉を想定する。 また、研究テーマの最終年度として、本研究で達成した研究成果の総括を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に発表した論文はもともとオープンアクセスにするように考えて、そのための費用を保留していたが、IEEEへの論文投稿の手続きに不備があったのか、原因は明らかではないが、オープンアクセスではない状態で電子出版されてしまった。また、予定していた国際学会が新型コロナウィルスの影響でキャンセルとなってしまった。そのため、当該予算を翌年度に発表する論文をオープンアクセスにするために使用することとした。
|