研究課題
本研究は、体性幹細胞であり再生医療の現場で最も臨床応用が進んでいる骨髄間葉系幹細胞(bone marrow mesenchymal stem cell, 以下BMSC)における、非電位依存性陽イオンチャネルTRPC6を介した機械刺激応答メカニズムと細胞周期制御との関連を明らかにすることを目的とする。BMSCにおける機械刺激感受性の存在を示唆する報告はあるものの、増殖との関連、および外部からの機械刺激を感受し細胞内シグナルへと変換する詳細なメカニズムについては不明な点が多い。これまでの研究で、siRNA法によりBMSCのTRPC6発現を抑制すると細胞周期進行が阻害されG2/M期にarrestすることがわかっている。細胞周期同調培養法により各細胞周期ステージにとどめた状態のBMSCを準備し、チャネル活性をパッチクランプおよび細胞内Ca2+イメージングにより測定した結果、TRPC6チャネルの特徴である受容体刺激と機械刺激の協働応答がM期に増強することが明らかになった。この応答はアクチン骨格を破壊するサイトカラシンD処理により減弱した。またサイトカラシンD処理による増殖停止も確認できた。さらに、受容体刺激と機械刺激の共作用により増殖が促進されること、増殖がTRPC6特異的阻害薬により抑制されることが明らかとなった。以上の結果から、BMSCのTRPC6を介した機械刺激応答が細胞骨格による調節を受け、細胞増殖、特にM期進行と直接的に関わる可能性が示唆された。この結果は、第97回日本生理学会大会にて発表した。
2: おおむね順調に進展している
BMSCにおけるTRPC6を介した機械刺激応答の調節にアクチン骨格の存在が重要であることが明らかとなり、機械刺激を細胞内シグナルへ変換するメカニズムの1つが判明した。また、TRPC6の機械刺激応答の特徴である受容体刺激と機械刺激の協働作用により増殖が促進すること、さらにTRPC6特異的阻害薬により増殖抑制が起こることから、TRPC6チャネルを介した機械刺激応答と増殖との密接な関連がより明確になった。
引き続きTRPC6を介した機械刺激応答の分子メカニズムについて、アクチン骨格以外の要素についても解析を進める。また、機械刺激を受けたBMSCの品質検討(正常な多分化能を維持しているか、癌化の恐れがなく安全であるか)を行い、増殖促進効果を示す条件下で得られたBMSCが問題なく臨床応用可能かを分析する。
TRPC6を介した機械刺激応答の分子メカニズムの解明のために計画していた受託解析依頼を、実験の効率化を考え翌年に回したため次年度使用額が発生したが、研究計画全体の遂行に支障はない。次年度は引き続き研究を遂行するための消耗品、学会発表に必要となる経費、および論文投稿のための英文校閲費とオープンアクセスに係る費用として使用する予定である。
すべて 2019 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) 備考 (2件)
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