スマート手術室や在宅医療、予防医学への期待、自動運転やロボットの普及など日常的なヒトの健康状態や情動を把握できる技術の必要性は今まで以上に高まってきている。本研究では新たなセンサ配置の空間分解式近赤外分光を用いて、非接触で簡単に、高速に、定量性良く血液動態を把握する技術の確立を目指し、光源近傍で成り立つ新たな空間分解分光法を精度よく測定できる条件を、見出すことが重要な目的となる。本年度は、理論解析コンピュータシステムの計算能力をGPUを用いて増強してソフトウェアの改良を加えたうえでモンテカルロシミュレーションを行い、空間分解法における測定感度分布を網羅的に明らかにし、送受光器間距離の組み合わせにより測定深度が変化することがわかった。それらの知見を定式化して深度可変の新たな計測法の基礎を確立することができた。 深度可変の空間分解計測法に関する成果は、特許出願後、査読付き国際学会誌Sensorsに掲載された。また、本手法を用いて試作した多点計測装置を血管外科手術の患部モニタリングに応用し、足底部の血管支配領域ごとにモニターできるようにした。そのシステムを用いることは、血管内にステントを留置する際の効果をリアルタイムかつ定量的に把握するうえで極めて有用であることが示され、酸素化状態の改善に基づく効果の高い処置や必要な分のみの処置をすることが可能となり患者の負担軽減に期待できる。この成果についても論文誌(J. Vasc. Surg. Cases Innov. Tech.)に掲載された。本手法による高い利便性と定量性を併せ持つ血液動態計測法は、多様な健康管理ツールや新医療機器開発にも有用と考えられる。
|