研究課題/領域番号 |
18K12054
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大野 栄三郎 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (00447822)
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研究分担者 |
川嶋 啓揮 名古屋大学, 医学部附属病院, 講師 (20378045)
廣岡 芳樹 名古屋大学, 医学部附属病院, 准教授 (50324413)
宮原 良二 名古屋大学, 医学系研究科, 講師 (50378056)
中村 正直 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院講師 (60467321)
石川 卓哉 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (00792649)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 膵癌 / 超音波エラストグラフィ / EUS-elastography / EUS-SWE / 組織硬度 / CAF |
研究実績の概要 |
膵癌は豊富な線維性間質(がん関連線維芽細胞:cancer-associated fibroblast:CAF)を有し、「硬い」腫瘍と認識され、一方で癌細胞は硬い組織環境下において更に悪性度を増すとの報告も認め、膵癌およびその周囲組織の硬度と膵癌細胞の悪性度及び進行度に密接に関連している可能性がある。膵癌組織においてCAFは単なるbystanderではなく膵癌の進展など病態に強く関わっていることも報告されている。我々は臨床的に膵癌の硬度を測定し(超音波内視鏡下エラストグラフィ及び組織に対する原子間力顕微鏡(AFM))、硬度と膵癌の病理像(癌促進性、癌抑制性CAFの比率、分布)と臨床像(予後、化学療法の奏功率)との関連性を明らかにすることを目的としている。 1)EUS-SWE(EUS-guided shear-wave elastography)による膵癌組織硬度測定 超音波エラストグラフィは非侵襲的に組織弾性を測定して画像化、数値化する技術である。超音波エラストグラフィは関心領域中の相対的組織弾性を可視化するStrain elastographyと剪断弾性波測定にて組織弾性率の定量的評価を可能とするShear wave elastography(SWE)に大別される。本年度は超音波内視鏡に新たに搭載されたEUS-SWEの膵癌を含む膵疾患に対する測定の認容性、信頼性の評価を行った。(学会、論文報告) 2) 膵癌患者の進行度、治療効果(化学療法奏功率)と組織硬度との関連性の検討 これまでに切除を施行した膵癌症例の病理組織所見と術前のEUSによる組織硬度所見との対比を行った。術前にEUS-elastographyによる組織硬度測定を行った10症例に対して免疫染色を施し、線維化の比率、CAFの比率、血管内皮細胞の比率と分布を測定した。組織硬度指標と線維化の程度には正の相関を認めた。(未報告)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
EUS-SWE(EUS-guided shear-wave elastography)による膵癌組織硬度測定 当該期間に膵癌16例を含む全160例に対してEUS-SWEによる膵硬度測定が施行された。同時にStrain elastographyの測定も施行し得られたデータはhistogram解析にて半定量化を行った。膵実質の組織硬度測定に関しては本ソフトウェアを用いた世界初のデータとして学会報告(EUS2018)及び論文報告(Endoscopic ULTRASOUND 2019)を行った。結果、EUS-SWEでは膵癌症例では組織の不均一性が取得データの不均一性につながり、組織弾性率の定量化については再現性に問題が生じた。一方同時に施行したStrain elastographyの画像、Histogram解析のデータからは、組織硬度の高い(硬い)膵癌組織ほど予後が悪い傾向を示した。これらの二種類の超音波elastography画像は相補的に用いる必要があることが示唆された。 膵癌患者の進行度、治療効果(化学療法奏功率)と組織硬度との関連性の検討 膵癌組織硬度と膵癌の生物学的悪性度、臨床像との対比を行うため、術前にEUS elastographyを施行した患者のEUSによる組織硬度所見と切除病理所見及び臨床像との対比を行った。組織硬度はEUS-SWEによる組織硬度値及びStrain elastography画像をHistogram解析を行い半定量化した数値を用いた。結果、術前EUS画像にて高硬度を示した膵癌症例は予後不良の傾向を認めた。膵癌の硬度に影響を与える病理学的因子を明らかにする目的に病理標本に対してAZAN染色(線維芽細胞)、alpha-SMA(CAF)、CD31(血管内皮細胞)の免疫染色を施し、染色される画像的特徴と膵癌組織硬度との対比を現在施行中である。
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今後の研究の推進方策 |
1)膵癌組織硬度(超音波エラストグラフィ)測定と臨床経過との対比:膵癌に対して超音波内視鏡検査、超音波内視鏡下穿刺生検を施行した患者の画像所見、組織所見(病理所見及び組織検体硬度測定)を施行する。膵癌に対してのEUS-elastographyの標準的測定法の確立及び検査後、化学療法を施行した患者を対象に、化学療法の奏功率、予後と組織硬度所見との対比を行う。 2)原子間力顕微鏡を用いた膵癌EUS-FNA検体に対する膵癌組織細胞硬度の測定:膵癌に対してEUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺生検)にて得られた組織検体をサンプルとして膵癌組織硬度と病理診断(組織診断、がん細胞・線維性間質量比)との対比を行う。 3)膵癌切除症例の病理組織所見と術前画像所見の対比:膵癌切除病理標本の間質組織の組成、成分解析を行うための免疫染色を行う。昨年度施行した免疫染色に加え、ミオシン軽鎖染色、Yap染色を追加する予定。さらに、線維芽細胞の組織硬度に関連すると考えられるlysyl oxidase(Lox)発現量を免疫染色にて評価を行う。 4)膵癌組織硬度と発現遺伝子異常の相関の検討:膵癌組織を間質のCAFの発現、硬度により分類し、硬度の異なる膵癌組織における遺伝子異常の発現プロファイルを探索するため、EUS-FNAにて採取された膵癌検体もしくは切除例の病理組織標本よりlaser microdissection法にて癌組織を切り出し、癌組織よりDNAを抽出し、膵癌に代表的に認められる遺伝子変異をマイクロアレイにて解析し、硬度の異なる膵癌の遺伝子プロファイルの差異を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
1)膵癌組織硬度(超音波エラストグラフィ)測定と臨床経過との対比に関して、本年度、超音波エラストグラフィを施行した膵癌切除例の解析対象数は現在10例であった。術前の組織硬度と病理所見との対比を行うためには少なくとも更に30例ほどの病理組織プレパラートの集積を要する。また膵癌の硬度に関連するタンパク質の発現、遺伝子変異プロファイルを探索するための実験を計画しているが2018年度中に実験開始に至らなかったため、次年度に請求させていただく。(症例追加) 2)投稿した論文に関する出版費用の請求が2018年度中に間に合わないため、次年度分として請求させていただく。 3)米国における消化器関連学会(DDW2018)に参加予定であったが、諸事情にて参加できなかったため旅費が予定よりも少なくなった。2019年度には本研究内容にて学会参加を予定しているため次年度分として請求させていただく。
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