研究課題/領域番号 |
18K12055
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
中村 匡徳 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20448046)
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研究分担者 |
八木 高伸 早稲田大学, 理工学術院, 主任研究員(研究院准教授) (00468852)
杉田 修啓 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20532104)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 赤血球 / 溶血 / 膜損傷 / 破壊 / 可視化 / SHG |
研究実績の概要 |
SHG(Second Harmonic Generation)は細胞膜の構造変化を反映する.細胞膜にダメージが加われば,細胞膜の構造は変化するはずであるため,細胞膜のダメージを定量化できるはずである.本研究では,細胞膜に与えるダメージとSHG光強度との関係の定量化を目指している. 細胞膜のダメージの可視化を目指し,まずはSHG観察によって細胞膜に沿った円環状の画像が取得できるかを確認した.観察対象を赤血球としSHG観察したところ,円環状のシグナルを得ることはできなかった.そこで,SHG専用色素Ap3を用いることで,細胞膜のSHG観察を可能にしようと考え,Ap3で染色した赤血球をSHG観察した.その結果,円環状のSHGシグナルは得られたものの,それが細胞膜であるかは不明であったため,サイズが大きいPASM(ブタ胸大動脈由来平滑筋細胞)に切り替えて,Ap3で染色して観察した.しかしながら,泡の発生や細胞が瀕死の状態となってしまったため,生細胞では細胞膜の観察ができなかった.そこで,細胞を固定してAp3染色の条件の最適化を試みたが,様々な条件を試しても細胞膜を観察することはできなかったため,観察方法を一から見直した.具体的には観察を落射観察から透過観察に変更し,検出フィルターの波長幅を狭くした.その条件でPASMの細胞膜を観察したところ,わずかに細胞膜を観察できたが,環状のシグナルは得られなかった.これは,PASMの細胞高さが小さいことが原因であり,細胞膜の観察にはある程度の細胞高さが必要だと考えた.その仮説のもと,細胞高さが大きいニワトリの赤血球を観察したところ,ニワトリの赤血球で環状に細胞膜を観察することができた.すなわち,昨年度の成果としては,ニワトリの赤血球において,細胞膜のSHG観察を行える染色条件ならびに観察条件の同定が行えたことである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
赤血球膜をSHG光にて可視化する条件および方法を決定した。これにより2年目以降に予定している細胞膜を損傷した場合でのSHG光変化を調べることが可能になる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の最終目標は細胞膜に与えるダメージ量とSHG光強度との関係の定量化である. それにはまず,細胞膜にダメージが加わると細胞膜から発せられるSHG光は減光するのかを確認する.その確認には,細胞膜に確実にダメージを与える必要がある.その方法として,浸透圧による膜破壊,エレクトロポレーションなどが考えられる.浸透圧によって膜破壊を発生させた場合,細胞膜のどの部分に損傷が起こったのか不明である.SHG観察可能な細胞膜の箇所は,光軸方向と垂直に配向するリン脂質にあたる部分のみであるという報告がある (Mizuguchi et al, 2018) .よって,細胞膜の狙った箇所に確実にダメージを与える方法が必要である.エレクトロポレーションは(電気穿孔法)は,細胞に電気パルスを与えることで一時的に小さな孔を生じさせる方法である.特にエレクトロポレーションにおいては電気パルスの陽極側に大きなダメージが加わることが報告されている(Moen et al, 2014)ため,細胞膜の狙った箇所に確実にダメージを与えることができる.この方法によって,細胞膜にダメージが加わるとSHG光が減光することを確認する. 次に,細胞膜に機械的なダメージを与える方法を検討する.前述したように,最終目標は細胞膜に与えるダメージ量とSHG光強度との関係の定量化であるため,与えるダメージも定量可能な量でなければならない.例としてひずみがあるが,細胞の引張試験は現実的には非常に困難である.このように,直径10 μm以下の細胞に機械的なダメージを与えることは困難であるため,その方法を検討しなければならない. 最終的には,細胞膜に機械的なダメージを与えた上で,SHG観察し,細胞膜に与えるダメージ量とSHG光強度との関係を定量化する.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は、実験条件の選定に時間がかかってしまったため、消耗品代が残ってしまった。成果に記したように、実験条件は決定できたため、今年度は昨年度予定していた実験も含めて行っていく予定である。
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