研究課題/領域番号 |
18K12056
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
平方 秀男 京都大学, 医学研究科, 客員研究員 (70271509)
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研究分担者 |
杉田 尚子 京都大学, 医学研究科, 助教 (20750532)
伊井 仁志 東京都立大学, システムデザイン研究科, 准教授 (50513016)
巽 和也 京都大学, 工学研究科, 准教授 (90372854)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 静脈血栓塞栓症 / トロンビン / 数理モデル / 移流拡散 |
研究実績の概要 |
静脈血栓塞栓症は発症予測が困難で高率に突然死する。 現在のVTE発症予測は臨床的な危険因子を列挙するにとどまり有効性に疑問が残る。新鮮な静脈血栓の力学的性状が発症のカギをにぎるが、詳細は不明である。血栓形成・構造などは主要な凝固因子であるトロン ビンの拡散・濃度分布や流れ方が重要と考えられる。 我々はすでに独自のマイクロ流路システムを自作して血流中で様々な条件設定(温度、血小板数、流速、ヘマトクリットなど)の下で「リアルタイムに血小板からフィブリンが発生・ 成長する様子」や「せん断速度やヘマトクリットと共にフィブリン繊維の配向性が増加すること」を明らかにしてきた。 そこで、この技術を応用して様々な条件下でトロンビンを可視化して、血栓形成~成長・構造と対比して様々な条件が血栓構造などに与える影響を解明することとした。 トロンビンを蛍光として測定する方法は数多く報告されているが、我々が持つ蛍光顕微鏡によりマイクロ流路内で流血中のトロンビンを可視化するのに適した方法を確立した。活性化した血小板膜表面上でトロンビンバーストが起こることは知られていたが、実際にはこれまでの定説のように一部の血小板だけで起こるのではなく、少なくとも反応初期にはほとんどの血小板で起こっていることを突き止めた。この成果の発表を国際血栓止血学会で予定していたがCOVID-19の影響で学会そのものが中止となってしまった。 また、これらの変化をリアルタイムで可視化する方法論も確立した。トロンビンバースト の基礎となる細胞内カルシウム濃度は一つの血小板上でも時間と共に強くなったり弱くなったりという変化を繰り返すことも見出した。また、形成中の血栓の内部でトロンビン濃度は極めて高濃度となることも見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
上述のごとく多くのステップ、たとえばトロンビンの可視化と血栓形成~成長を同時にリ アルタイムでとらえるまでのステップ、などは順調に進行した。 ただ、血流中でのトロン ビンの「拡散・濃度分布・流れ」と血栓形成~成長の同時観察が遅れている。 順次上記同時観察の遅れの原因になった技術的問題数点は改善してきた。 例えば、トロンビンの可視化試薬は紫外線で励起するが、あまり強い紫外線を照射すると血液そのものに影響が出る。そこでトロンビンの生成だけでなく「拡散・濃度分布・流れ」を可視化するためにはトロンビン可視化試薬をやや高濃度で使用する必要があったが、高感度カメラが使用できることとなり改善した。実験室の室温変化による血栓形成への影響も問題であったが、ヒートブロックなどを追加使用することで、解決した。しかし、新型コロナウ イルスまん延が研究遂行にも大きく影響した。 我々は共同研究者がいる工学部の実験室を借りて実験していた。 実験が複雑であるため2-3名で同時進行的に手分けして一つの実験を遂行するスタイルをとっていた。しかし、京大病院からスタッフは他学部施設(この場合工学部)への出入り禁止という命令が出されてしまった。そのため共同で実験を遂行していた2名が出入り禁止の対象になってしまい実験の進行が大きく阻害された。 早急に実験を再開できる方法を講じ、このトロンビンの「拡散・濃度分布・流れ」と血栓形成~成長の同時観察を可及的速やかに行い、各種条件設定下(ヘマトクリット、温度、せん断速度、血小板数など)における、活性化した血小板近傍の「トロンビンの拡散・濃度分布・ 流れ」と「血栓形成~成長・構造」を同時にリアルタイムで観察するというステップへ進展させるたい。
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今後の研究の推進方策 |
可及的速やかに実験が正常にできる環境を確立し、トロンビン「拡散・濃度分布・流れ」の可視化と血栓形成~成長を同時にリアルタイムでとらえる方法を確立する。 次に、この技術を応用して各種条件設定下(ヘマトクリット、温度、せん断速度、血小板数など)で活性化した血小板近傍の「トロンビンの拡散・濃度分布・流れ」 と「血栓形成~成長・構造」を同時にリアルタイムで観察する。蛍光共焦点顕微鏡も使用許可が下りたので血栓の三次元構造も観察する。これらのデータを用いて、以前作った血栓成長の移流拡散反応モデルを精密化することで様々な条件が「トロンビンの拡散・濃度分布・流れ」「血栓~成長・構造」に及ぼす影響を解明する。 本研究は血栓の構造や発生・成長過程と様々な条件を数理モデル化することでVTE予測~予防~救命という医療への革新的な技術提供の第一歩とする。さらに、本研究で得られるデータは流体力学で未解明である赤血球などのかく乱因子がある場合の移流拡散問題の基礎データともなるので、巽(分担)が参画する移流拡散に関する国際研究グループにデータを提供し流体力学分野にも貢献する。 さらに血栓症が多いとされる“うつ病患者”を杉田(分担)がリクルートし臨床経過を観察すると共に患者血液の場合では拡散・分布や血栓形成が健常人と異なるか否かも明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
要素技術が極めて有効に働き、トロンビン「拡散・濃度分布・流れ」と血栓形成~成長の同時リアルタイム観察以外の部分は極めて順調に進行し、追加の工夫や試行錯誤がほとんど なかったことが大きな要因である。さらに問題のトロンビン「拡散・濃度分布・流れ」と血栓形成~成長の同時リアルタイム観察に関しても共同研究者である巽より高感度カメラを貸与していただけたので、この問題の解決にも特段の費用が発生しなくなったことも大きな要因となった。カメラが高感度化したため、血小板やフィブリン網の可視化試薬の使用濃度も抑えることができた。マイクロ流路システムを作る際に使用する原型が予想以上に耐久性があり長持ちしたことで、原型を作り直す必要がなくなった。さらにマイクロ流路そのものも複数回使用できる方法を確立できたので、マイクロ流路作成にかかる費用も節減できた。温度管理システムも比較的小型のもので十分な管理ができるようになったことも経費節減に奏功した。さらに、7.で述べた如くコロナの影響による京大病院からの他学部への出入り禁止命令の影響を受け実験そのものが極めてスロ-ダウンしてしまったことはとても大きな原因である。
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