組織適合性が高いエチレンービニルアルコール共重合体(EVOH)の多孔質膜でバッグを作り、この中に、温度感応性にゲル化するキトサンゲルに包埋したラット 膵島を封入したマクロカプセル化膵島(MEI)を作製した。キトサンゲル中にHGF、bFGFを添加、または何も添加しないものを、糖尿病マウス皮下に一期的に移植したところ、無添加やbFGF添加では血糖の低下はなく、体重も徐々に減少して、治療効果は確認できなかったが、HGFを添加した場合は、高血糖の改善が見られ、体重も徐々に増加し た。 血液検査でもHGF群のインスリン値は無添加・bFGF群に比し優位に高く、代謝や腎機能の指標も正常群に近い値を示した。また、組織学的検討では、HGF群だけでデ バイス周囲の血管新生を認めた。また、in vitroの実験で、キトサンゲルはHGFを徐放し、培養液中へのHGFの添加によって低酸素による膵島細胞のアポトーシスが軽減した。これらの結果は、キトサンゲルにHGFを添加することで、マクロカ プセル化膵島の一期的な皮下移植によって一定の糖尿病治療効果を期待できることを示しており、今後の応用が期待できる。 この作製法によるMEIの皮下移植による移植効果の持続性を確認したところ、5ヶ月程度で体重が減少に転じ、移植効果が消失した。これらの成果は論文化した。回収したEVOHバッグ中にはゲル成分がほとんど残存せず、長期的な移植効果持続にはより安定したゲルの応用が必須と考えた。アガロースゲルはin vitroではキトサンゲルに比し数倍安定したゲルである。ゲル化温度が37℃以下のアガロースを選び、40℃以下のゾルの状態でHGFを加えてこれをゲル化したところ、ゲルからHGFがほとんど放出されなかった。この製法でのアガロースの利用は不適当と考えた。現在、HGFを徐放し、in vivoでより安定なゲル素材を探求中である。
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