研究課題
ブタは生理学的および解剖学にヒトに類似していることから、モデル動物として臓器移植、再生医療、医学的トレーニング、医療機器・医薬品開発など広く使用されている。ただし成豚時体重が100kgを超えるため、多くの研究機関における実験動物施設での取扱には高いハードルがある。本研究は、各研究機関に導入可能なマイクロミニサイズの免疫不全ブタの創出により、ブタを利用した幹細胞の治療効果評価などをを可能にすることを目指す。方法として、マイクロミニブタ由来の精子を体外受精に用い、さらにその体外受精卵においてゲノム編集により成長ホルモン受容体(GHR)のノックアウトによる超小型化を図る。同時にインターロイキン2受容体γ鎖(IL2RG)のノックアウトによる免疫不全化を導入することにより免疫不全超小型ブタ作出を目指す。本年度は、雄のマイクロミニブタ3頭より精液を採取し、体外受精条件の検討を行った結果、高い胚発生率を得ることが可能な体外受精条件の確立に成功した。また、昨年度決定したIL2RGに対し高い変異導入率を示すgRNAを使用したIL2RGノックアウトブタ作出を目指した。方法として、Cas9タンパクとともにgRNAをエレクトロポレーションにより導入したブタ体外受精胚を受胚メスブタに胚移植した。一件の胚移植手術を行い、妊娠、出産に成功した。2頭のオス豚が得られ、シークエンス解析の結果、一頭は30.5%のモザイク変異を持つことが確認された。また、ブタ体外受精胚におけるゲノム編集技術に関する結果の一部について、第7回日本先進医工学ブタ研究会およびThe 15th Transgenic Technology Meeting (TT2019) において発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
2種類の標的遺伝子それぞれについて昨年度、ブタ体外受精胚にCas9タンパクと導入した場合に非常に高い効率で変異導入可能なgRNAを得ることができた。また、それらのgRNAを組み合わせ、2種類のgRNAを同時に導入することで2つの標的遺伝子がブタ体外受精胚において同時にノックアウト可能であることについても確認できた。本年度はX連鎖重症複合免疫不全症(X-SCID)原因遺伝子のインターロイキン2受容体γ鎖(IL2RG)のノックアウトブタ作出を目指し、ブタ体外受精胚におけるIL2RGノックアウトおよびその胚移植手術を行った。胚移植手術後、妊娠、出産に成功し、2頭の仔豚の出産に至った。得られた仔豚の次世代シークエンス解析の結果、1頭についてはIL2RG遺伝子へのモザイク変異導入が確認できた。また、超小型化免疫不全ブタ作出にむけ、マイクロミニブタ精子を用いた最適な体外受精条件の確立にも成功した。
今年度、条件を確立したマイクロミニブタ由来精子を用いて体外受精を行い、得られたブタ胚に対し2種の標的遺伝子であるIL2RG/ GHRダブルノックアウトの導入を行う。さらに胚移植を行うことで超小型化免疫不全ブタ作出を目指す。一方、今年度得られたIL2RGゲノム編集ブタはモザイク変異を持つオスブタであったので、IL2RGモザイクオスと野生型メスの交配により、X染色体の一方のアレルにIL2RG変異を持つヘテロメスを作出も進める。得られたヘテロメスと野生型オスの交配によるIL2RGホモ欠損ブタ作出が期待され、得られたIL2RGノックアウトブタについて、免疫細胞の解析など、超小型化免疫不全ブタ作出後に行う予定の解析について並行して検討を行う予定である。
2019年度は一度胚移植により妊娠豚が得られ、母豚の購入費用が抑えることができた。また、次年度以降、出生した子豚の維持および次世代作出のため飼料費などの飼育・維持に使用する予定である。また、2019年度生まれた仔豚および次世代ブタのオフターゲット候補配列を含めた遺伝子配列確認に使用予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Animal Biotechnology
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