統合型OCTを用いた全眼部三次元バイオメータの開発

2019 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 18K12067
• 研究機関: 北里大学
• 研究代表者: 古川 裕之 北里大学, 一般教育部, 講師 (20406888)
• 研究分担者: 廣岡 秀明 北里大学, 一般教育部, 准教授 (60296522)
• 研究期間 (年度): 2018-04-01 – 2022-03-31
• キーワード: OCT / 医用生体工学 / 光干渉断層計測 / 生体計測 / 眼球計測

研究実績の概要

前眼部と後眼部の明瞭な立体断層画像の撮影及び眼軸長の計測が一台で行える統合型眼球撮影OCT装置の開発に取り組んだ。角膜表面や水晶体表面の曲率半径を正確に得るには、前眼部の歪曲のない断層画像が必要であり、高精度なテレセントリック光学系を3枚のレンズで構築しなければならない。前年度までの開発により、テレセントリック領域を12mm×12mm程度まで拡大することに成功していたが、光軸上と軸外において、光路長に差が生じてしまうという問題は、解決できていなかった。ミラーを試料側に置いてOCT画像を取得すると、本来ならば、ミラーの表面に沿って直線状の断層画像を得られるはずである。しかし、得られたミラーの断層画像は曲線的に変化しており、光軸上におけるミラーの奥行き位置に比べ、軸外におけるミラーの奥行き位置は、最大60μm程度遠い位置にあった。この光路長差の問題を解決するため、光軸上のミラーの位置を基準にとり、この基準に合わせて、軸外のミラーの位置をソフト的にシフトする方法を開発し、16mm×16mmの測定領域全体にわたって、光路長の差を解消することができた。
また、上記の開発と並行して、テレセントリック領域をさらに拡大させることを目的として、トリプレットレンズを用いた光学系の設計を、光学機器メーカーと共同で行った。
さらに、新規で購入した高性能なワークステーションに、最新の計測ソフトと機械学習用のソフトをインストールすると共に、基本的な画像認識プログラムを作成するなど、屈折補正プログラムの完全自動化に向けた準備も整えた。

現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

令和元年度の研究計画目標は、統合型眼球撮影OCT装置を完成させることであったが、現段階では９割程度の完成度である。しかし、高精度な測定に障害となっていた諸問題は、解決済みであることから、来年度の早期に装置を完成させることが可能である。また、より高精度な測定と、臨床研究のさらなる展開を見据え、トリプレットレンズを用いた光学系の設計も行うことができた。そして、三次元屈折補正プログラムに必要な機材、ソフトウェーアについても、完全自動化に向けた準備が整っている状況から、これらを総合的に勘案して判断した。

今後の研究の推進方策

ハードウェアーの開発：昨年度に引き続き、統合型眼球撮影OCT装置の開発を行い、早期の完成を目指す。具体的な作業としては、3枚のレンズの間に大型の光路切替え用ミラーを挿入し、前眼部と後眼部の光学系を瞬時に切り替えられるようにすること、前眼部の撮影箇所を同定するための可視カメラを接続することなどである。また、臨床研究での利便性を向上させるため、光学ユニットを3軸の電動ステージ上に載せて、ジョイステックで簡単に光学ユニットを操作できるようにする。そして、装置の完成後には、曲率半径が既知である模型眼を撮影し、三次元の屈折補正の精度を確定させる。
プログラム開発：新規に購入したワークステーションで、前眼部の画像分析プログラムを作成し、既存の三次元屈折補正プログラムに組み込んだ後、最終的に計測プログラムと融合させる。その後、臨床現場に設置した既存のワークステーションと新規購入したワークステーションとを交換する。
臨床研究の実施：ハードウェアーの開発が終了した時点で統合型眼球撮影OCT装置を臨床現場に設置する。まず、ボランティアの眼パラメータを用いて、既存の装置の結果と比較し、本OCT装置で得られた測定値の妥当性を検証後、白内障患者の撮影へと移行する。

次年度使用額が生じた理由

前眼部における長い焦点深度を維持しつつ、後眼部の横分解能を高めるためには、走査ミラーに入射するビーム径を大きくしなければならない。そして、この大きなビーム径を受けるためには、大開口の走査ミラーを必要としたが、今年度の予算内ではこの走査ミラーを購入することができなかった。そこで、翌年度に請求した助成金と合わせて、大開口の二軸走査ミラーユニットを購入するために、次年度に研究費を繰り越すことにした。また、残りの研究費は、ミラーユニットをマウントするための光学部品、電気部品の購入費、学会発表の旅費、論文投稿料等に用いる。