研究課題/領域番号 |
18K12067
|
研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
古川 裕之 北里大学, 一般教育部, 講師 (20406888)
|
研究分担者 |
廣岡 秀明 北里大学, 一般教育部, 准教授 (60296522)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | OCT / 医用生体工学 / 光干渉断層計測 / 生体計測 / 眼球計測 |
研究実績の概要 |
前眼部と後眼部の高精細な3次元断層画像が撮影できると共に、眼軸長の計測も可能な統合型眼球撮影OCT装置の開発に取り組んだ。角膜表面、水晶体前後面の曲率半径を高精度に取得するには、前眼部の歪曲のない断層画像が必要である。このためには、3枚のレンズで構成される物体側テレセントリック光学系の精密な調整が不可欠であり、入射光の光軸をレンズの主点へ正確に通さなければならない。そこで、光学系の調整を正確かつ容易に行えるようにすることを目的として、レーザ光の走査に用いる2軸ガルバノミラーを保持する治具を設計開発した。また、前眼部の撮影箇所を同定するために可視カメラを導入していたが、暗闇においてもOCTの撮影ができるようにLED照明を設置した。一般的に、高齢者など、あまり眼を大きく開けられない患者に対しては、散瞳液を用いて瞳孔を開かせてから撮影を行わなければならない。しかし、散瞳液を用いると、光が入りやすくなるために眩しく感じる、ピントが合わせづらくなって細かい字が見えにくくなるなど、点眼後4~5時間の生活に支障を生じてさせてしまうという欠点がある。そこで、散瞳を促す別の手段として、部屋を暗くして撮影する方法を取り入れることにした。安価な可視カメラで暗室撮影を可能にするため、可視カメラの波長感度の限界付近である850nmのLED光を調査し、OCT撮影用の光と合わせた眼底上のパワーを見積ったうえで、人眼へ照射可能な照明を製作した。さらに、照明光とOCT光を眼球に導くためのダイクロイックミラーと、このミラーを保持する治具の設計も行い、ミラーについては開発済みである。 また、前眼部のテレセントリック領域を拡大させることを目的として、トリプレットレンズを昨年度に設計したが、眼底の撮影領域が4mm程度であったため、このレンズの設計変更も行い、撮影領域を6mm程度に拡大させた光学系を構築した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度の研究計画は、統合型眼球撮影OCT装置を完成させた後、装置を病院に移設し、臨床研究を開始する予定であった。そして、既存の装置との比較を行い、本OCT装置の有用性を検証することを目標としていた。しかしながら、新型コロナウィルス感染症の拡大により、病院での臨床研究を延期することにした。通常業務での感染予防に対する医師や検査技師等の医療従事者に係る負担増により、本研究の計測まで行う余裕がないという状況に加え、本研究の対象者である白内障に罹患している患者の多くが高齢者であるため、必要な被験者数を確保することも困難となったからである。そこで本年度は、より高精度な測定に不可欠な装置の改良と、臨床研究を行う上での問題の洗い出しとその問題を解決する期間とした。その結果、臨床研究を行うことはできなかった一方、装置の開発はおおむね予定通りに進んだことを総合的に勘案して判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
ハードウェアーの開発:昨年度に引き続き、統合型眼球撮影OCT装置の開発を行い、早期の完成を目指す。具体的な作業としては、3枚のレンズの間に大型の光路切替え用ミラーを挿入し、前眼部と後眼部の光学系を瞬時に切り替えられるシステムを定盤で構築する。そして、その光学系を、スリットランプに載せるためのプレートに移動させ、光学ユニットとして完成させる。また、臨床研究での利便性を向上させるため、光学ユニットを3軸の電動ステージ上に載せて、ジョイステックで簡単に光学ユニットを操作できるようにする。最後に、曲率半径が既知である模型眼を撮影し、三次元の屈折補正の精度を確定させる。 臨床研究の実施:新型コロナウィルス感染症が収束、或いは高齢者に対するワクチン接種が普及し、必要な被験者数が確保できる目途が立ち次第、統合型眼球撮影OCT装置を臨床現場に設置する。まず、ボランティアの眼パラメータを用いて、本OCT装置と既存の装置で得られた結果を比較検討する。そして、本OCT装置の有用性を検証後、白内障患者の撮影へと移行する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の影響で、予定していた国際会議への出張が禁止されたため、会議の参加費と出張旅費を使うことができなかったことが、次年度使用額が生じた理由である。そして、この未使用分の一部は、本年度に開発したダイクロイックミラーをマウントするための開口の大きな治具の製作費として使用する。また、残りの未使用分と翌年度に請求した助成金と合わせて、3枚のトリプレットレンズをマウントするための治具の製作費、学会発表の旅費、論文投稿料等に用いる。尚、国際会議や学会がリモートで開催された場合でも、積極的に参加・発表していく予定である。
|