本年度は、大学病院で臨床研究を実施する予定であった。しかしながら、新型コロナウィルス感染症が猛威を振るっている状況は変わらず、いっこうに収まる気配もなかったため、臨床研究を行うことを断念した。これは、通常業務での感染予防に対する医師や検査技師等の医療従事者に係る負担増により、本研究の計測まで行う余裕がないという状況に加え、本研究の対象者である白内障に罹患している患者の多くが高齢者であるため、必要な被験者数を確保することも困難となったからである。そこで昨年度に引き続き、より高精度で広範囲な領域の測定を可能とするための装置の改良を行った。 まず、昨年度に設計したダイクロイックミラーを保持する治具の設計変更を行った。16mm四方であったこれまでのビーム照射領域を20mm四方まで拡大させたことに加え、対物レンズもこの治具に取り付けられるように改良したことで、光軸調整がより精密に行えるようになった。 次に、焦点面の歪みの3次元補正をソフトウェアーで行った。これまでに開発した装置において、物体に入射する光線群と垂直な焦点面は光軸から外れるにつれ歪みが増大し、平坦な領域は約10mm四方の範囲しか得られていなかった。この歪みは、テレセントリック光学系からの僅かなずれ、色収差、コマ収差、及び非点収差に起因するものであり、現有するハードウェアーでは対処しきれない問題であった。そこで、入射する光線群の焦点位置を変化させるため、偏光感受型OCT装置の開発で培った技術を転用し、ソフト的に焦点面を平坦化した。具体的には、光軸上のミラー信号を奥行き位置の基準信号として用い、この基準信号の奥行き位置にその他の軸外の信号の奥行き位置を逐次的に一致させた。その結果、測定に必要な16mm四方の範囲で焦点面を平坦にすることに成功した。
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