昨年度までに温調機能付きプレート遠心機を用い、ヒトiPS細胞由来心筋細胞等の細胞を速やかに電気的・機能的に結合する立体組織化する手法を確立した。そして遠心プレートに不均一にかかる遠心力を補正することで、細胞を播種後30分程度で迅速に立体組織化することができることを示してきた。さらに遠心力を用い、速やかに作製したヒトiPS細胞由来心筋組織はラット皮下組織に生着し、その拍動を確認することもできた。また作製した組織の配向性付与に関しては、デバイスを用いることで作製組織を伸展することに成功している。 組織工学の課題として血管網のない40-80 um以上の厚さを持つ立体組織は、組織内部の低酸素・低栄養あるいは細胞から排出されるアンモニア等の代謝産物の蓄積により壊死をおこす。そこで今年度は立体組織内の細胞障害を抑えるため、酸素を産生するとともにヒトの代謝産物のアンモニアを吸収しアミノ酸を合成することができる微細藻類と共培養することで分厚い立体組織の作製を試みた。緑藻クロレラを共培養することで、立体組織内のエネルギー代謝が嫌気的代謝から好気的代謝へと変化し、効率的に栄養素を利用できるようになった。また立体組織から排出されるアンモニアを微細藻類が利用することも確認できた。そして哺乳動物細胞のみで作製した立体組織と比べ、共培養組織では顕著に組織障害性が低下した。微細藻類と共培養することで、細胞障害を抑えながら、200-400 umの厚みを持つ立体組織を維持培養することが可能であることを示した。また組織の配向性付与に関しては遠心プレートに不均一にかかる遠心力を利用することで組織を目的方向に伸長させることに成功した。今後この方法を用い組織配向性付与につなげていきたいと考えている。これらの研究成果は組織再生治療において患者QOLの向上および新たな機能を有する組織作製に貢献するものと考える。
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