研究課題/領域番号 |
18K12071
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
黒澤 修 国立研究開発法人理化学研究所, 科技ハブ産連本部, 副チームリーダー (70510428)
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研究分担者 |
李 卓思 国立研究開発法人理化学研究所, 科技ハブ産連本部, 研究員 (60799740)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ヒトiPS細胞 / 栄養膜細胞 / 胎盤バリア / マイクロ流体デバイス |
研究実績の概要 |
ヒトiPS細胞から分化誘導した胎盤の元となる細胞(栄養膜)と血管内皮細胞(HUVEC)のバイレイヤー構造を持つヒト胎盤バリアチップを開発する。 この目標の元、これまでにおいて、胎盤バリアチップにおける基盤技術であるマイクロメッシュ培養法とマイクロ流体システムを組み合わせたマイクロ流体デバイスの作製と、胎盤バリアチップに使用する胎盤のもとになる細胞の効率的な分化誘導法と純化培養につき検討した。 マイクロメッシュ構造を有するマイクロ流体デバイスとしては、1)体内の血流状態を模倣できるような、マイクロメッシュを介して2つの流路が独立して存在するデバイスと、2)複数のサンプルを同時に計測できる、トランズウエルタイプ様培養デバイスの2つのタイプを開発した。 iPS細胞から胎盤のもとになる細胞(栄養膜細胞)への分化誘導と目的細胞の純化培養に関して、これまではマイクロメッシュ上での分化誘導を行ってきたが、より低コストでiPS細胞からの分化誘導を行うため、細胞が生育できる領域を制限する「限定培養法」を開発し論文発表した(Biochem Biophys Res Commun,Vol.505)。また、iPS細胞から分化誘導されたシスト状の細胞塊から栄養膜幹細胞を純化培養し、純化した細胞が、増殖能と合胞体性栄養膜細胞および絨毛外性栄養膜細胞への分化誘導能を有することを確認した。 今後は、今回樹立した栄養膜幹細胞とHUVCとのバイレイヤー構造から合胞体性栄養膜への分化誘導等を実現し、より生体内の胎盤に近い胎盤バリアチップの開発を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マイクロメッシュ培養法とマイクロ流体システムを組み合わせたマイクロ流体デバイスの作製に関しては、当初、マイクロメッシュを挟むように2つの流路を上下に配置した構造を持つもののみの開発予定であったが、複数のサンプルを同時計測できるよう、トランズウエルのメンブレン部をマイクロメッシュに置き換えたような「メッシュウエル」容器の開発を合わせて行った。 iPS細胞から胎盤のもとになる細胞(栄養膜細胞)への分化誘導と目的細胞の純化培養に関しては、計画外の項目として、iPS細胞から栄養膜への分化誘導法として細胞の接着領域を制限して培養する「限定培養法」を開発し、より低コストでの栄養膜分化誘導を実現した。分化誘導した栄養膜細胞(シスト状の細胞塊)からの栄養膜幹細胞の純化培養は予定通り行われ、合胞体性栄養膜および絨毛外性栄養膜への分化能を有した栄養膜幹細胞を樹立した。 以上の成果は、当初予定していなかった事項も含まれており、全体としてはおおむね順調と言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、マイクロメッシュ上でシート形成した栄養膜幹細胞とHUVECをナース培養して栄養膜幹細胞とHUVECのバイレイヤー形成させ、さらには、合胞体性栄養膜への分化誘導を実現するための条件検討を行う。細胞の相性の問題で、ナース培養が上手くいかない場合は、各細胞をシート化して貼り合わせる方法に関しても検討する。研究代表者は、タイトジャンクションによるバリア機能を評価する際に用いられる経皮電気抵抗(TER: Transcutaneous Electrical Resistance)計測により、バイレイヤー状態を定量的に解析し、合胞体性栄養膜・HUVECバイレイヤーを胎盤バリアチップとして用いるための標準化を行う。 最終年度においては、胎盤の機能として最も重要である母体から胎児への栄養輸送機序を解明するため、蛍光グルコースを用いて、細胞内取り込み(母体血→胎盤)・消費(胎盤内)・放出(胎盤→胎児血)を、濃度勾配依存的に解析し、母体側のグルコース変動が胎児に与える影響を調べる。物質透過の分子量依存性、PM2.5などの粒子状物質の透過性に関しても明らかにする。 以上の実験項目に関し、各物質の透過計測に関しては研究分担者が、電気計測やデバイス改良に関しては研究代表者が中心となって行い、胎盤バリアを通過する物資を総合的に評価するための胎盤バリアチップを開発する。
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