研究課題/領域番号 |
18K12075
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
小幡 亜希子 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40402656)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生体材料 / ガラス / 無機イオン / 細胞 / 免疫 / 骨形成 |
研究実績の概要 |
無機イオンによる細胞への活性化効果を最大限に活かすべく、ガラスを活用した材料組成設計と申請者らの独自の技術による形状設計を組合せることで、新しい生体材料を開発することが本研究課題の目標である。 骨や歯などの硬組織を再建するための生体材料開発において、多くは骨再建に特化した細胞(骨芽細胞や破骨細胞など)や血管形成を担う細胞との関連について主に調査されてきた。一方で近年の研究により、免疫系細胞を伴う炎症過程はその後の新生骨形成に寄与する間葉系幹細胞や骨芽細胞の活性にまで影響を及ぼすことがわかっている。しかし、細胞単位での免疫系および骨形成を担う細胞間の相互作用について既に多くのことが明らかとなっている一方、硬組織再建用の生体材料存在下においては未知な部分が多い。特に、材料由来因子が上述した相互作用に対しどのように関与するか、そして骨の形成機能や形成された骨の質などに対しどのような影響を及ぼすか不明である。 以上のことをふまえ、身体内にて起こる初期炎症反応から骨形成までの流れを見据え、これまで着目されていなかった『免疫系細胞(マクロファージ)→間葉系幹細胞→骨芽細胞・血管内皮細胞』経路で起こる細胞間クロストークに対する、Cu, Zn, Co, Ca, Si等の無機イオンの影響を明らかにする。複数種のイオンが同時に供給された系も検討することで、目指すガラス組成を設計し、独自の技術で3D綿状繊維構造のゾルゲルガラスを作製する。細胞応答性を操作するだけでなく、実用性を考慮した柔軟性と操作性を兼ね揃えた生体用ガラス綿材料の開発を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度には、マウス由来マクロファージ(RAW264.7)単体の代謝活性に対する各種イオンの影響について主に検討した。これをふまえて2019年度は、マクロファージに加えさらにマウス由来間葉系幹細胞(KUSA-A1)を用いて研究を進めた。特に、イオンの影響を受けたマクロファージの産生物による、間葉系幹細胞の骨形成性細胞への分化能への影響について検討を行った。 具体的には、Cu, Zn, Co, Ca, Si, Mg, Srの計7種の各イオンを添加した培養培地を作製し、これを用いてマクロファージを培養した。そこで得た培養上清には、マクロファージがイオンの刺激を受けた結果産生したサイトカインを含む、様々な産生物が含まれている。この培養上清を用いて間葉系幹細胞を培養し、細胞の増殖性および骨形成性細胞への分化能を評価することで、免疫系細胞の反応を介した間葉系幹細胞の骨分化について詳細に検討した。 多くの結果においてイオン種に依存した違いが観察された。一例として、分化の指標となるタンパク質の一つであるオステオカルシンの発現量を比較した結果を以下に示す。コントロール(一般的な培養培地)を用いてマクロファージを培養し、その培養上清を用いて間葉系幹細胞を培養した条件では、培養上清を使用しない条件よりもオステオカルシンの発現量は減少していた。一方で、7種のイオンを添加した培養培地を用いた系において、そのうち2種ではイオン濃度に依存せず同様に減少を示し、3種では増減の変化が現れず、残りの2種では増大する結果が得られた。 以上のことから、免疫系細胞の一つであるマクロファージが各種イオンによる刺激を感受し、サイトカイン等の産生物の内容が変化したことが推測される。この変化によって、間葉系幹細胞の骨形成性細胞への分化の過程に変化が生じたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、免疫系細胞であるマクロファージから産生されたサイトカイン等が、間葉系幹細胞の分化へ及ぼす影響を検討してきた。これをふまえ、今後はマクロファージと間葉系幹細胞の共培養系におけるイオンの影響を検討する。「マクロファージから間葉系幹細胞へ」というこれまで一方向性の影響を観察していたのに対し、共培養系にすることで双方向性の影響をさらに観察できると考える。間葉系幹細胞もイオンの刺激を感受し、サイトカイン等の産生に影響を受けることが幾つか報告されている。このことからも、今後は双方向性の影響について検討を進める。 具体的には、各イオン存在下でマクロファージと間葉系幹細胞を共培養するのだが、予め、最適な培養培地条件、各種細胞の濃度条件、培養期間等についてまずは検討する。最適条件を導いたのち、各イオンを添加した培養培地を用いた培養試験を実施する。 一方で、ここまでに得たデータをもとに、最も興味深い挙動を示したイオンを数種選択し、これらを溶出するガラス材料の作製にも取り掛かる。まずはイオンの徐放を実現するガラス組成を検討し、理想的なガラス材料を得た後には、それらを用いた細胞培養試験を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は、当初予定していた実験内容のほとんどを実施することができ、研究費の使用内容も概ね想定内の範囲となった。その結果、2018年度から2019年度に繰り越した研究費分の一部が残留し、これが2020年度(次年度)へと繰り越される形となった。2020年度は、上述した通り(「今後の研究の推進方策」参照)、共培養系の細胞培養試験の実施に加え、ガラス材料の合成にも取り掛かる。そのため、新たにガラス合成と材料評価に必要となる消耗品や装置使用料金がかかることが見込まれることから、今回の繰り越しは順当と考える。
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