本研究課題の目標は、無機イオンによる細胞への活性化効果を最大限に活かすべく、ガラスを活用した材料組成設計と申請者らの独自の技術による形状設計を組合せることで、新しい生体材料を開発することである。身体内にて起こる初期炎症反応から骨形成までの流れを見据え、『免疫系細胞(マクロファージ)→間葉系幹細胞→骨芽細胞』経路で起こる細胞間クロストークに対する無機イオンの影響を検討した。さらに得られた知見をもとにガラス組成を設計し、立体的な綿状繊維構造のゾルゲルガラスの作製を試みた。 7種の無機イオンによるマクロファージ単体への影響について、濃度依存性を考慮しつつ観察した。また、イオンの刺激を受けたマクロファージが産出したサイトカインを含有する培地を用いて間葉系幹細胞を培養することで、マクロファージの反応を介した間葉系幹細胞の骨分化に対するイオンの影響ついて検討した。さらに、マクロファージと間葉系幹細胞の共培養系におけるイオンの影響についても検討した。これらの検討結果より、イオンの種類によってマクロファージ単体の応答性は有意に変化し、さらに間葉系幹細胞の骨分化の進行も変化することがわかった。つまり、マクロファージは生体材料から溶出するイオンに対し、その種類および濃度に依存した特異な応答を示すことが明らかとなった。また、このことが骨形成にまで影響を及ぼす可能性も見出した。 一方で、任意のイオンを含有するゾルゲルガラスの繊維構造体の作製を試みた。シート状から綿状まで様々な繊維構造体の作製に成功し、このとき特に湿度条件が大きく作用を及ぼすことを見出した。体内環境に近い緩衝溶液中において各種イオンの溶出も観察されたことから、細胞に対するイオンの効果を積極的に活用することが可能な生体活性ガラス材料として期待できる。
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