本研究では、新規遺伝子導入ベクターとしてプラスミドDNA搭載脂質・炭酸カルシウムハイブリッドナノ粒子を設計している。この粒子は、エンドソーム酸性下炭酸カルシウムが崩壊し、効率的にプラスミドDNAを細胞質に放出するようにデザインされている。 まず、プラスミドDNAをエタノール相に分散する技術を開発し、エタノール相に塩化カルシウムと脂質、プラスミドDNAを分散し、水相にPEG修飾脂質と炭酸ナトリウムを溶解した後、これら2液を混合することで、ワンステップの操作によりナノ粒子を得ることに成功し、ヒト肝癌細胞株HepG2において市販の遺伝子導入試薬であるLipofectamine3000(LFN3000)と同等の高い導入効率を示すことが明らかになった。前年度に実験計画法である決定的スクリーニングおよび中心複合計画により最適化を行い、至適条件において、充分に高い遺伝子発現効率を示しつつ、粒子径を120 nm程度まで縮小することに成功した。しかしながら、in vivoにおける遺伝子導入効率に課題が残った。肝類洞内皮壁のフェネストラは直径約100 nm程度と言われており、粒子径をさらに小さくする必要があると考えた。 そこでマイクロ流体工学を応用することにした。マイクロ流路によれば、小さなナノ粒子を再現良く調製できるものと思われる。これまでにエタノール相と水相を混合して脂質ナノ粒子を調製した例は存在するが、本研究ではさらにナノ粒子のコアに炭酸カルシウムを有し、このような複雑な製剤へのマイクロ流体工学の応用例は少ない。本研究では、マイクロ流体工学のみならず、さらに実験計画法を組み合わせることで、最適条件において70 nm程度と100 nmを大きく切ることに成功しつつ、培養細胞において高い遺伝子発現効率を維持することができた。
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