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2019 年度 実施状況報告書

ヒアルロン酸を用いた外来抗原ペプチドデコレーションによるがん細胞の抗原性の改変

研究課題

研究課題/領域番号 18K12082
研究機関北九州市立大学

研究代表者

望月 慎一  北九州市立大学, 国際環境工学部, 准教授 (10520702)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2021-03-31
キーワードがんワクチン / 薬物送達システム / 抗原 / 多糖
研究実績の概要

がんワクチンは生体が自ら持つ免疫機能を活性化してがん細胞を攻撃する治療法であるが、多くのがん細胞はそうした免疫細胞からの攻撃を回避するためにがん抗原の提示量を減らしている。本研究では、がん細胞上の目印となる抗原分子をより抗原性の高いものへ薬物送達システムを利用して置換させることである。
初年度に作製したヒアルロン酸(HA)と抗原のオボアルブミン(OVA)から成るHA-OVAコンジュゲート体に関し、がん細胞に対する応答を評価した。HA-OVA処理したがん細胞とOVA特異的細胞傷害性T細胞(CTL)を有する脾細胞を混合させると、強力なサイトカイン(インターフェロンγ;IFN-γ)産生が観察された。これは、がん細胞が取り込んだOVAの一部を細胞表面上に提示し、CTLが反応したことを示している。また、OVAのみを処理したがん細胞群ではIFN-γの産生が少なかったことから、コンジュゲート体に関してはHAを介して効率よくOVAが取り込まれていることが分かった。今後は添加するHA-OVAの量やCTLとの混合比を変えて比較検討する予定である。
また、がん細胞の中にはCTLからの攻撃を避けるために抗原を提示する分子(MHCクラスI分子)を提示するのを抑制しているがん細胞もある。そうしたがん細胞に対してCTLの感受性を回復させるために二重鎖RNAに注目した。がん細胞内には二重鎖RNAに応答してMHCクラスI分子の発現が誘導されることが知られている。OVAの時と同様にHAのカルボキシル基を用いてオリゴシトシンとのコンジュゲート体(HA-oligoC)を作製し、poly Iを添加することで二重鎖RNAを含むHA架橋体を作製することに成功した。しかし、未反応のHA-oligoCやpoly Iも確認されるため、今後は両者の仕込み比を変えることで反応効率の向上を図る。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

Balb/cマウスにOVAとアジュバントとしてCpG-DNAを皮内に2回免疫を行い、2回目の免疫から1週間後に脾細胞を採取した。一方、マウス大腸がん細胞(CT26)に作製したHA-OVAコンジュゲート体を添加し、24時間後に先の脾細胞と混合させ、さらに24時間培養後に上清中のインターフェロン-ガンマ;(IFN-γ;)量を酵素結合免疫測定法(ELISA)で評価した。OVA処理がん細胞と同脾細胞混合液と比較し、コンジュゲート体処理群からは有意なIFN-γの産生が観察された。この結果よりがん細胞がHAを介してOVAを取り込み抗原としてOVAを細胞表面上に提示し、OVA特異的T細胞がそれに応答していることを示している。これより本研究の基本的概念となる外来抗原を人為的に提示させることで強い免疫応答を誘導可能であることが示された。
また、CTLからの攻撃を避けるためにMHCクラスI分子の発現を抑制しているがん細胞(例;マウスメラノーマ細胞)に対しても同様の効果を誘導するために二重鎖RNA修飾HAの作製を試みた。HAのカルボキシル基に対し架橋分子を介してオリゴシトシン40merを結合させた。このHA-oligoCコンジュゲート体に対しポリイノシン酸(poly I)を添加し、二重鎖RNAを介したHA架橋体を作製した。高分子量体のpoly Iよりも大きさが小さくなっていたことから複数のHA-oligoCコンジュゲート体が凝集して小さく折りたたまれていることが分かった。しかし、まだ未反応のコンジュゲート体も観察されるため、poly Iの混合比を検討することで架橋複合体作製の最適化を今後行う。

今後の研究の推進方策

HA-OVAコンジュゲート体処理によりがん細胞に対してOVAを提示させることに成功したが、どれくらい効率よくOVAが取り込まれているのか定量的評価を今後は行う。OVAの余ったアミノ基に対して蛍光分子(FITC)を修飾し、がん細胞に添加、各時間に蛍光顕微鏡観察あるいはフローサイトメトリーにより、取り込み量を定量する。現在モデルに使用しているCT26細胞は過剰にHA受容体のCD44を発現しているが、得られたコンジュゲート体がCD44を介して取り込まれるかどうか、CD44ノックアウト細胞を作製し、取り込み量の変化からそのメカニズムを明らかにする。また、CT26を皮下に移植したマウスを用意し、HA-OVAコンジュゲート体を直接投与し、in vivoで効率よくOVAが腫瘍組織に取り込まれるか検討する。
HA-二重鎖RNA作製に関し、未反応のHA-oligoC及びpoly Iが残らないようにそれぞれの混合比を変えて検討し、最適化を行う。得られた架橋体をMHCクラスI分子を発現していないがん細胞に添加、各時間におけるインターフェロン産生及びMHCクラスI分子に対する抗体染色を行い発現誘導の有無を確認する。HAを介して二重鎖RNA及び抗原の送達が可能になればあらゆるがん細胞に対して抗原の改変が可能になると期待される。

次年度使用額が生じた理由

当初予想していたよりも少ないタンパク量、ヒアルロン酸量で、コンジュゲート体作製及びその免疫応答の基礎実験を行うことが出来たため、本年度の使用額をその分抑えることが出来た。次年度は、この分と併せて得られたコンジュゲート体の細胞実験、動物実験に、さらには二重鎖RNA送達実験に使用する予定である。また、細胞実験までの結果が得られれば薬学系の学会での発表の機会も設けたいと考えている(そのための旅費に使用予定)。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2020 2019 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件) 備考 (2件) 産業財産権 (1件)

  • [雑誌論文] Topical Therapy with Antisense Tumor Necrosis Factor Alpha Using Novel β-Glucan-Based Drug Delivery System Ameliorates Intestinal Inflammation2020

    • 著者名/発表者名
      Sakisaka Hideto、Takedatsu Hidetoshi、Mitsuyama Keiichi、Mochizuki Shinichi、Sakurai Kazuo、Sakisaka Shotaro、Hirai Fumihito
    • 雑誌名

      International Journal of Molecular Sciences

      巻: 21 ページ: 683~683

    • DOI

      10.3390/ijms21020683

    • 査読あり
  • [雑誌論文] An Agarose-Curdlan Nanogel That Carries Etanercept to Target and Neutralizes TNF-a Produced by Dectin-1-Expressing Immune Cells2019

    • 著者名/発表者名
      Dung Hyang Nguyen、Ngoc Bao Chau Nguyen、Linh T.P. Nguyen、Ly T. Do、Tung T. Nguyen、Nam H. Nguyen、Sakurai Kazuo、Mochizuki Shinichi、Kihara Takanori、Thang Dinh Nguyen、Anh Thi Van Nguyen、Houng T.T. Pham
    • 雑誌名

      Journal of Electronic Materials

      巻: 48 ページ: 6570~6582

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] Enhancement of cancer vaccine by modification of antigenicity for cancer cells2019

    • 著者名/発表者名
      Shinichi Mochizuki
    • 学会等名
      257th ACS National Meeting & Expo
    • 国際学会
  • [学会発表] ヒアルロン酸を利用した抗原送達によるがん細胞の抗原性の改変2019

    • 著者名/発表者名
      望月慎一
    • 学会等名
      第35回日本DDS学会
  • [学会発表] 抗原修飾ヒアルロン酸を用いたがん細胞の抗原性改変2019

    • 著者名/発表者名
      望月慎一
    • 学会等名
      第68回高分子討論会
  • [学会発表] Enhancement of cancer vaccine by modification of antigenicity for cancer cells2019

    • 著者名/発表者名
      Shinichi Mochizuki
    • 学会等名
      15th Annual Meeting of the Oligonucleotide Therapeutics Society
    • 国際学会
  • [備考] 北九州市立大学 櫻井・望月研究室HP

    • URL

      http://www.sakurai-lab.jp/index.php/

  • [備考] 北九州市立大学 教員紹介(望月)

    • URL

      https://www.kitakyu-u.ac.jp/env/faculty/d-life/introduction/shinichi-mochizuki.html

  • [産業財産権] ポリヌクレオチド-ペプチドコンジュゲートを含む免疫誘導剤およびそれを含む医薬組成物2020

    • 発明者名
      望月慎一、小泉誠、森田浩二
    • 権利者名
      望月慎一、小泉誠、森田浩二
    • 産業財産権種類
      特許
    • 産業財産権番号
      特願2020-057249

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公開日: 2021-01-27  

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