研究課題/領域番号 |
18K12085
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
保住 建太郎 北里大学, 北里大学保健衛生専門学院, 講師 (10453804)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | キトサン / ラミニン / 細胞外マトリックス / ペプチド / ハイドロゲル / 細胞分化 / 血管新生阻害 |
研究実績の概要 |
上皮系細胞の分化に伴うオルガノイド形成時には、周囲が非常に薄い細胞外マトリックスである基底膜が形成されることが広く知られている。基底膜の組成は発生の各ステージや組織によって異なるだけでなく、同じ組織でも分化誘導が盛んな部分、細胞分裂が盛んな部分、組織としての機能を果たしている部分で異なる。ラミニンは基底膜成分の中で最も多くのアイソフォームの種類を有していることから、基底膜の組成と機能のバリエーションはラミニンによっている可能性が高い。本研究計画では腺組織原基の発生・分化に適した細胞外環境の基質特性を解明し、唾液腺細胞や各種幹細胞を始めとした細胞分化の誘導を可能とする細胞培養プラットフォームとしての人工ラミニン(ラミニン由来活性ペプチド-キトサンハイドロゲル)の開発を目的としている。 令和二年度は本研究計画における人工ラミニンの基盤となるキトサンハイドロゲル調製法の最適化についての学会報告と、ヒト唾液腺細胞を用いたキトサンハイドロゲルの細胞接着活性についての学会報告をおこなった。また、本研究の目的の1つである細胞分化を制御する細胞外マトリックスの機能解明の一つとして血管新生を抑制する細胞外マトリックスfibulin-7の機能解明と活性ペプチドを用いた応用研究に関しての論文発表を行った。本研究は米国NIHとの共同研究で、fibulin-7由来の活性ペプチドがラット網膜を用いた血管新生を抑制することが示された。本ペプチドを用いることで、腫瘍細胞モデルへの血管新生抑制などへの応用が可能になることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和二年度の研究で、人工ラミニンの基盤となるキトサンハイドロゲル作成の最適化した。キトサンの可溶化剤としてジカルボン酸を用いることで、キトサンを水に溶解させることが可能となり、ジカルボン酸のカルボキシ基とキトサンのアミノ基を架橋することで容易にキトサンハイドロゲルを作成可能となった。さらに、ジカルボン酸の種類によってキトサンハイドロゲルの硬さが異なることから、異なるジカルボン酸を混合することでキトサンハイドロゲルの固さを自由に調整できること、架橋化反応の際にGood緩衝剤を用いることで安定的に狙った硬さのハイドロゲル化を制御できた。さらに、ジカルボン酸に加えてラミニン由来活性ペプチドを混合した状況下で架橋化反応を進行させたラミニン由来活性ペプチド-ジカルボン酸-キトサンハイドロゲルは、ペプチドの種類特異的な細胞接着活性を示した。 しかしながら、令和二年度は新型ウィルス感染症蔓延による影響で研究協力者である学生の研究中止をはじめ、自身の研究時間も大幅な縮小を強いられたため、計画の完遂には大幅に届かない状況であった。そこで、研究費の執行率を40%程度とし残る60%を令和三年度に執行することに計画を変更した。
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今後の研究の推進方策 |
令和二年度の研究計画が新型ウィルス感染症蔓延の影響で遅延を強いられたため、計画に沿った成果を得るために令和三年度を本研究計画の最終年度とした。最終年度の研究計画としては、ジカルボン酸とラミニン由来生物活性ペプチドで架橋化したキトサンハイドロゲルの生物活性評価を完了し、腺細胞に分化を誘導する細胞培養プラットフォームを完成させる。具体的には、細胞分化誘導の1つのキーファクターとなる細胞外環境の「固さ」をコントロールするため、「固さ」を容易に可変可能な調整方法も開発し、その固さを詳細に評価するとともに、固さが腺細胞分化に及ぼす影響との相関関係を解明する。さらに、キトサンハイドロゲルが腺組織分化細胞培養プラットフォームとして利用できるような生物活性を付与するために、ラミニン由来活性ペプチドとして異なる活性ペプチドグループから抽出した混合ペプチドの組み合わせと混合比の最適化を引き続き行う。異なる受容体と特異的に結合するペプチドの組み合わせや、三種類以上のペプチドの組み合わせに関しても検証する。さらに、令和二年度の計画予定であった二種類の細胞でのco-cultureシステムを開発することで、腺組織分化プラットフォームを最適化していく。併せて、ヒト唾液腺細胞の分化誘導がペプチド-キトサンハイドロゲルの最適化だけで制御できなかった場合にそなえ、各種の成長因子の添加を評価するとともに、乳腺初代培養細胞を用いた系でも並行して推進していく。 以上の研究推進方策のもと、異なるアミノ酸や誘導体、ペプチドも流用しながらフレキシブルに対応することで、本計画の遂行に向けて研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型ウィルス感染症蔓延の影響で、学生の自宅待機や就業時間制限を含め研究に費やす時間を十分に確保することが難しく、計画研究費に対して60%程度を未使用とした。本年度は細胞培養系消耗品費、ペプチド合成に関わる消耗品費、乳腺初代培養細胞の購入、論文投稿代として計画通りに効率よく使用する予定である。
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