生体内の器官発生プロセスにはさまざまなパターンがある。唾液腺や乳腺、腎臓などの器官発生時には、上皮系細胞が、間葉系細胞の構築する細胞と細胞外マトリックスを主体とする間葉組織に貫入していくことによって形成される。貫入時の器官原基周囲は間葉系とは異なる非常に薄い細胞外マトリックスである基底膜が形成されることが広く知られている。基底膜の組成は発生の各ステージや組織によって異なる。基底膜の主要な構成成分で細胞外マトリックスタンパク質の一種であるラミニンは、基底膜タンパク質中で最も多くのアイソフォームを有していることから、基底膜の組成と機能のバリエーションはラミニンによっている可能性が高い。本研究計画はラミニンに注目し、腺組織原基の発生・分化に適した細胞外環境の基質特性を解明し、唾液腺細胞や各種幹細胞を始めとした細胞分化の誘導を可能とする細胞培養プラットフォームとしての人工ラミニン(ラミニン由来活性ペプチド-キトサンハイドロゲル)の開発を目的とした。 令和四年度は本研究計画で得られた結果のうち、主に基盤研究として実施した部分をまとめて総説として報告した。一方で、基盤研究で得られた結果を応用する細胞培養プラットフォーム開発に関しては、キトサンハイドロゲルの架橋剤を改変することで生物活性の最適化をすすめることを可能としたが、新型ウィルス感染症の影響もありデータを蓄積・精査することに時間を要した。現在は、論文の投稿、学会発表に向けた準備を行っており早い段階で本研究計画で得られた業績として報告する予定である。
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