研究課題/領域番号 |
18K12086
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研究機関 | 横浜薬科大学 |
研究代表者 |
岩瀬 由未子 横浜薬科大学, 薬学部, 准教授 (00521882)
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研究分担者 |
弓田 長彦 横浜薬科大学, 薬学部, 教授 (40191481)
西 弘二 崇城大学, 薬学部, 准教授 (00398249)
梅村 晋一郎 東北大学, 医工学研究科, 学術研究員 (20402787)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 薬物送達 / 超音波 / 音響化学作用 |
研究実績の概要 |
難吸収性薬物の薬物送達の制御は、これまで、膜透過性の改善、難水溶性の改善、あるいは製剤化による薬物の消化管改善といった化学的手法が主に用いられてきた。我々は、薬物の構造などに依存することなく薬物送達を制御する手法として、生体に対する物理的アプローチとして音響化学的作用による薬物送達システムの確立を検討している。ラット反転腸管を用いたサリチルアミドの膜透過は超音波照射により促進されていた。この薬物移行促進が超音波照射による腸管膜の損傷によるものではないことを確認するため、超音波非照射・照射時、サリチルアミド存在下・非存在下で処置後のラット反転腸管を病理学的に評価した。処置後のラット反転腸管はホルマリン固定パラフィン包埋標本とし、HE染色を施した。ラット反転腸管はサリチルアミド存在下・非存在下ともに超音波照射による損傷は確認されなかった。 今年度はさらに、サリチルアミドより分子量の大きいキニーネを難吸収性薬物として使用し、超音波照射による膜透過が促進されるかについてラット反転腸管を用いて検討した。超音波照射条件はサリチルアミドの膜透過を調査した3 MHz, 2.0 W/cm<sup>2</sup>, 8 minで行った。作製したラット反転腸管内に緩衝液を充てんし、それをキニーネ溶液に浸し、超音波照射による腸管膜移行を調べた。腸管内液に含まれるキニーネ濃度は蛍光光度計で蛍光強度を測定することにより見積もった。この結果、キニーネの移行濃度は超音波非照射時では3.5 microg/mLであったが、超音波照射時には9.4 microg/mLとなり、超音波照射により薬物移行量は約2.7倍となった。 これらの検討結果より、超音波照射により増強された難吸収性薬物の移行には細胞膜の流動性の変化または、一時的に細孔が開いたことが関与すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成31年度は、サリチルアミドの超音波照射による腸管膜移行促進が腸管膜の損傷によらないことを確認するため、超音波強度0~2.0 W/cm2で10 min超音波照射後のラット反転腸管を病理学的に評価した。この結果、超音波照射または非照射、サリチルアミド存在下または非存在下いずれにおいてもラット反転腸管は損傷を受けていないことが確認された。このことから、超音波照射により促進されたサリチルアミドの膜透過促進は膜の流動性や一時的細孔の形成が関与していることが示唆された。 また、サリチルアミドよりも分子量の大きいキニーネを用いて超音波照射による膜透過促進について検討した結果、キニーネの移行濃度は超音波非照射時では3.5 microg/mLであったが、超音波照射時には9.4 microg/mLとなり、超音波照射により薬物移行量は約2.7倍となった。キニーネについても音響化学的にラット腸間膜透過が促進することを確認した。サリチルアミドおよびキニーネの薬物移行速度を比較すると、薬物移行速度は超音波非照射時ではサリチルアミドは0.43 min-1、キニーネは0.36 min-1であったものがそれぞれ超音波照射時にはサリチルアミドは0.70 min-1、キニーネは0.49 min-1となりキニーネよりもサリチルアミドの方が超音波照射による吸収促進効果を強く受ける結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討により分子量の異なる難吸収性薬物においても音響化学的に腸管膜を介した送達の促進が確認できた。音響化学的に送達可能な分子量に制限があるかどうかをさらに検討する。また、膜透過メカニズムを明らかにするため、超音波照射による細胞への一時的細孔の形成の有無を、HL60細胞を用い、細 胞膜を特異的に染色する蛍光性プローブ synaptogreentm C4により細胞膜を染色し膜の形 状変化を経時的に共焦点レーザー走査型顕微鏡で撮影し、撮影画像から膜の形状を確認する。また、細孔形成が確認された場合、音響キャビテ―ション誘発を促進させるためマイクロバブルナノ粒子を加え音響キャビテーションの関与を調べる。音響キャビテーションを誘発させた場合の、難吸収性薬物の移行率への影響を調べる。 さらに、抗腫瘍効果のある難吸収性薬物を超音波照射により音響化学的に腫瘍細胞に送達したのち、薬剤存在下または非存在下、超音波照射または非照射条件下、腫瘍細胞の増殖抑制効果を評価し、音響化学的な薬物送達が疾患の治療に有効に働くかを確認する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
超音波照射装置の修理に時間を要したため、実験の進捗が遅れている。このため、音響化学的に送達された薬物による細胞傷害性を確認する実験を次年度に行うことにした。今年度残額は前述の実験に必要な試薬等の消耗品購入に充てる。
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