研究課題/領域番号 |
18K12087
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
柿木 佐知朗 関西大学, 化学生命工学部, 准教授 (70421419)
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研究分担者 |
伊井 正明 大阪医科大学, 研究支援センター, 講師 (10442922) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ポリテトラフルオロエチレン / ペプチド固定化 / インテグリンリガンドペプチド / チロシン酸化 / マイケル付加反応 / 安定化 / 表面解析 / 血小板粘着性 |
研究実績の概要 |
2019年度は、研究計画調書に記載の「(2)ペプチド固定化ePTFE基材上への細胞・血小板接着性の評価」を中心に検討し、以下の成果を得た。 Ac-(Tyr-Lys)3-Gly3-Leu-Asp-Val (YK3)を固定化したePTFEフィルム上にヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞(HUVEC)を播種し、3および24時間培養してその接着数を評価した。その結果、未修飾<YK3吸着<YK3固定化ePTFEフィルムの順でHUVECの接着数は多くなった。また、24時間培養後では、YK3吸着ePTFEフィルムに接着していたHUVECが剥離していたのに対し、YK3固定化ePTFEフィルムにはHUVECは安定に接着していた。YK3はカチオン性であることから、表面電位が負となるePTFEに非特異的に吸着するものの、チロシン(Y)残基の酸化による固定化を施さないと培養中に遊離してその機能も失うことが分かった。つまり、YK3を吸着・固定化することでePTFEフィルムにHUVEC接着性を付与できること、またその機能は長期間維持されることが示唆された。一方で、ポジティブコントロールとしたIVコラーゲン吸着ガラス基材と比較すると、YK3固定化ePTFEフィルムへのHUVEC接着性は8割程度であったことから、より高密度かつ安定なリガンドペプチドの固定化が望ましく、YK3の直接固定以外の方法も模索必要性が認められた。さらに、最終年度に取り組むin vivo評価に向けて、ePTFEパッチの作製とラット頸動脈への移植評価モデルも確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は3か年の計画で、研究代表者らが開発したチロシン残基の酸化反応によるePTFEへのペプチドリガンドの安定な直接固定化とその人工血管への有用性の検証を目的としている。 初年度に、高純度のYE3およびYK3ペプチドの合成、ePTFEフィルム表面へのペプチドの固定化、さらに固定化されたYK3の優れた安定性を示すことができた。2019年度には、血管内皮細胞がYK3固定化ePTFEフィルムに早期に接着し、かつその細胞は24時間以上安定に接着することを示した。これらの結果より、想定していたチロシン残基の酸化で生じるキノンがリジン残基とマイケル付加反応することで架橋構造がePTFEフィルム上で形成され、それによって機能も長期間維持されることが示唆された。さらに、2020年度に予定しているin vivo評価のためのePTFEパッチのラット頸動脈への移植実験の手技的な準備も整えている。 以上の進捗を考慮し、本研究課題は当初の計画の通り順調に進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、YK3を固定化したePTFEパッチのラット頸動脈への移植実験を進める。当初は、数ミリ径のePTFE人工血管の利用を計画していたが、市販されているePTFE製人工血管がφ3mmと小動物への移植実験に使用するには太過ぎたことから、パッチ形状の試料の移植でYK3の固定化の効果を検証する。具体的には、ラット頸動脈に作製した2mm程度の孔にePTFEパッチを移植し、数週もしくは数カ月後の血管内膜層の形成過程を定量的に評価する。また、マウスからの脂肪由来間葉系細胞の採取や培養手技も既に確立しており、そのYK3固定化ePTFEフィルム上での接着や増殖も評価する。さらに、YK3の直接固定化以外の、より高機能を発現するリガンド分子固定化法の設計にも着手し、血管内膜再生促進型ePTFE人工血管を開発するための基盤となる知見を得たい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計上していた学会参加を別の研究費(別課題の成果報告も兼ねていたため)で支出するなど、旅費の総支出が予定よりも少額になったため繰り越しが生じた。これらは次年度計画予算の消耗品費に充填し、旅費およびその他経費を変更する予定はない。
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