研究課題/領域番号 |
18K12089
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研究機関 | 崇城大学 |
研究代表者 |
後藤 浩一 崇城大学, 生物生命学部, 教授 (30279377)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | メソポーラスシリカナノ粒子 / がんワクチン / ペプチド抗原 / 樹状細胞 |
研究実績の概要 |
本研究では、ナノサイズ(nmサイズ)の多孔質シリカ粒子(メソポーラスシリカナノ粒子、MSN)を用いた新しいがんワクチンの創出を目的としており、MSNの孔空内にがん抗原を封入したワクチン(MSNワクチン)を創製し、がん特異的免疫の誘導機能を細胞レベル、動物レベルで研究する。本年度は、まず、新しいワクチン素材としてのMSNを評価するため、ニワトリ卵白アルブミン(OVA)をがん抗原のモデルとし、マウスのキラーT細胞とヘルパーT細胞をそれぞれ刺激するOVAペプチド(OVA257-264、OVA265-280)を用い、MSNへの封入についてHPLC(High performance liquid chromatography)で検討した。また、T細胞を活性化する機能をもつ抗原提示細胞としてマウス樹状細胞(DC2.4細胞)を用い、蛍光試薬FITCで標識したMSN(FITC-MSN)を合成して、DC2.4細胞によるFITC-MSNの取り込みを共焦点レーザー顕微鏡とフローサイトメーターで観測し、さらにDC2.4細胞に対するMSNのサイトカイン産生誘導をELISA(Enzyme-linked immunosorbent assay)で測定した。抗原ペプチドのMSNへの封入については、OVAペプチドの水溶液をMSNの懸濁液と混合・濃縮する操作により、90%以上の封入率が得られた。また、FITC-MSNを培養液中に添加したDC2.4細胞では、濃度依存的に細胞の蛍光強度が増大し、細胞質内にFITC-MSNの蛍光が観測され、さらに、サイトカインの観測では、MSNの添加により、培養液中のIL-1βの濃度が増大することがin vitroの実験系で示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MSNワクチンの創製に際し、MSNの抗原キャリアー能について検討したところ、OVAペプチドとMSNを混合・濃縮することで、90%以上の高い封入率が得られ、抗原ペプチド高含有のMSNワクチンを調製できることが明らかとなった。MSNを抗原キャリアーとして用いることにより、投与したワクチン成分の生体内での分散や酵素による分解を低減できるワクチン製剤としての可能性が示された。また、MSNと抗原提示細胞の相互作用として、培養樹状細胞であるDC2.4細胞によるMSNの取り込みを検討し、MSNがDC2.4細胞の細胞質に取り込まれることが蛍光観察から明らかとなり、外部より抗原を効率的に樹状細胞へ送達可能であることが明らかになった。さらに、MSNの存在下において、DC2.4細胞からの炎症性サイトカインIL-1βの産生誘導が示されたことから、MSNは、単なる抗原キャリアーとしてだけでなく、キラーT細胞やヘルパーT細胞などの免疫実行細胞の活性化を増強するアジュバント様因子としての特性をもつことが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
マウスの免疫細胞を用い、MSNワクチンによる抗原特異的な免疫誘導を細胞レベルで検討する。マウスリンパ腫細胞と、これにOVA遺伝子を導入した細胞を免疫細胞とそれぞれ共培養し、免疫細胞のがん細胞傷害活性を比較する。さらに、免疫細胞の活性化の度合いをELISPOT(Enzyme-linked immunosorbent spot)アッセイで評価し、抗原特異的な細胞傷害活性の誘導をin vitroで明らかにする。また、マウスを用いたMSNワクチンのがん免疫誘導実験を検討する。MSNワクチンを投与したマウスに培養がん細胞を移植し、がんの増殖抑制や延命効果を観測して、動物レベルでのMSNワクチンの免疫誘導機能を実証し、さらに、正常マウスにMSNを投与してMSNワクチンの安全性評価を行う。
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