研究課題/領域番号 |
18K12099
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小尾 高史 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (40280995)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 全国保健医療情報ネットワーク / 公的個人認証サービス / 医療情報連携 |
研究実績の概要 |
全国規模での医療情報連携を行うに当たっては,患者のプライバシーに十分配慮する必要があり,そのためには適切な患者同意による情報連携の仕組みを導入する必要がある。本研究では,医療保険の資格確認時に利用されるマイナンバーカードに搭載された公的個人認証サービスや証跡情報等を活用することで,必要な時に必要な医療情報を患者本人の同意のもとで参照可能とする仕組みを検討し,できるだけ患者,医療機関双方に負担の無い情報連携の仕組みを構築することを目的としている。 本年度は,オンライン保険資格確認の際に利用される公的個人認証サービス(JPKI)を利用した本人同意の取り方についての整理と医療機関での同意取得時に必要となる情報の整理及び具体的なデータ構造の設計を行うとともに,周辺ソフトウエアの基本設計を行った。また,公的個人認証法の改正により,特定機関認証の法制度化が図られているが,その利用時には,マイナンバーカードに格納された本人の顔写真を利用した利用者の称号が求められる予定であることから,特定機関認証を利用した本人同意取得の方法について検討した。具体的には,医療機関窓口による顔写真照合は,医療関係者へ負担を強いることになるため,我々は,診察時に医師等が電子カルテに格納された患者の顔写真を照合するフローを提案した。さらに,提案フローを利用することで,患者の取り違え防止など,医療関係者のメリットにもつながることを示した。 さらに,日本IHE協会,JAHISの関係者と定期的に意見交換を行い,本人同意の基で医療情報連携を行うために必要となるIHE Frameworkの詳細仕様の調査及び,改良点の抽出を行った。 来年度はこれら成果に基づき,アプリケーションの実装をおこない,その動作検証及び評価等を行う予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は,我々の研究成果に基づき現在のJPKIアプリに実装されている,特定機関認証に基づく利用者証明機能を用いた医療機関受診記録生成に必要となる情報の整理及び具体的なデータ構造の設計を行うとともに,情報提供先医療機関において,患者が自己の情報の提供に同意したことを情報提供元医療機関等に伝える際の方式について検討した。オフラインで特定機関認証を行うための端末についても,当該システムで行うべき処理等についての要件を整理し,プロトタイプ開発に向けた検討を行ったが,現時点では,保険資格の確認をオンラインで行う方向であることや,特定機関認証に必要となる秘密鍵,証明書を医療機関に設置する端末内に格納することが制度的に難しくなっていることを踏まえて,来年度以降は,基金,国保連との連携による受診記録生成を中心に検討することとしている。 情報提供先医療機関における患者同意の取得については,公的個人認証サービスの有する3つの機能,電子署名,電子利用者証明,特定機関認証による電子利用者証明,のそれぞれについて,具体的な同意文章生成の方法について明らかにし,特に,特定機関認証による電子利用者証明の利用については,患者本人がパスコードやPINの入力を行わないため,患者の同一性確認が十分でない可能性があり,否認の可能性が電子利用者証明利用時よりも高まる可能性があることを指摘し,患者本人が能動的に意思を示したことを確認できる補助手段としてタプレット等への自筆の署名を共にタイムスタンプ,HPKIとの併用が必要であることを示した。 また,本研究の同意取得の仕組みを,総務省が行っている酒田地区における薬歴等の参照に関する実証に導入し,検討した同意プロセスの有効性と今後の課題を明らかにした。
|
今後の研究の推進方策 |
令和元年度は当初の予定通り,前年度の研究成果に基づき,基本設計を踏まえて,特定機関認証をサーバ側で実施する実験システムをマイナンバーカード読み取り可能なAndroidタブレットを用いて実装し,システムの動作確認を行う。また,セキュアモジュール対応Windowsタブレットを用いて保険資格確認用専用端末を実装し,病院内システムとの連携方法の検討を行う。そして医療機関窓口や診療室での利用場面を具体化し,実験用端末を用いて,技術面からの機能検証,評価をおこなう。また,同時にプライバシー評価,システムの安全性評価など,セキュリティ面の評価・検証をおこなうとともに,複数の医療機関で共通的に利用可能とするサービス利用基盤の運用方法を検討する。さらに,前年度の検討をもとに,医療機関受診記録を用いた患者同意に基づく情報連携フローを策定し,IHEの日本ローカルルールとして定めるべき部分を検討する。 加えて,研究担当者が構成員として参加する,総務省住基ネット調査委員会などを通し厚生労働省医療分野ネットワーク安全管理ワーキンググループにおいて今後政策に反映させるために必要となる制度・運用的方策を明らかにし,提言案としてまとめる予定である。
|