研究課題/領域番号 |
18K12109
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
引間 知広 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 准教授 (30332852)
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研究分担者 |
伊藤 高廣 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (10367401)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 烏口型マイクロニードル / ストレプトゾトシン誘発性糖尿病ラット / 電場 |
研究実績の概要 |
烏口型マイクロニードル(MN)アレイに塗布したゲルの溶解性に関して、ブタ皮膚を用いてin vitro条件で確認した。皮膚上にMNを適用した後に10分間静置すると、MNに塗布された薬物ゲルの約50%が皮膚内に送達できる事が分かった。そこでモデル薬物としてインスリンを選択し、インスリン経皮送達の可能性を検討した。実験動物としてストレプトゾトシン誘発性糖尿病ラットを用いた。インスリンゲルを皮膚上に塗布したコントロール結果と比較して、MN適用ラットでは血糖値の減少が見られたが、期待した効果を示さなかった。この原因を明らかにするため、継続して検討を行っている。 電場による薬物の皮膚透過促進は、分子量が1,000程度までの化合物で、そのメカニズムが明らかになっている。しかし本研究課題で検討する高分子量化合物(分子量が数万から数十万)の皮膚透過促進の可能性とメカニズムは明らかになっていない。そのためバイオ医薬品の皮膚内透過制御を目的として、電場による促進効果およびそのメカニズムのin vitro条件で検討を行った。バイオ医薬品のモデル化合物として分子量20万のFITC標識デキストラン(FITC-D)、モデル皮膚としてへアレスマウス皮膚を用いた。FITC-Dは電場を照射しないコントロールではまったく皮膚透過しないが、電場を照射すると皮膚透過量が増大する事が分かった。つまり電場により高分子量化合物の皮膚透過促進が可能である事を明らかにした。そして電場の照射時機によりFITC-Dの皮膚透過速度の促進効果の現れ方に違いがあった。そこで照射時機による皮膚内送達FITC-D量を測定した。電場照射時機によって角質層内におけるFITC-D量に違いは無かったが、表皮内におけるFITC-D量に4倍程度の違いが生じた。したがって電場により高分子化合物が表皮内へ押し込まれる事が促進メカニズムである事が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では3つの達成課題を挙げている。1つ目の「MNアレイ形状の最適化」は、昨年度でほぼ達成した。本年度は2つ目である「バイオ医薬品の皮膚内送達量の増大と皮膚透過速度制御」、および3つ目である「実験動物を使用した新規形状MNの効果検証」に取り掛かった。バイオ医薬品の皮膚内送達量の増大と皮膚透過速度制御を達成するために、物理的透過促進法のうち電場を選択し、その効果をFTIC-Dの皮膚透過量および皮膚内送達量の測定により検討した。その結果、電場により高分子化合物の皮膚内送達量の増大が可能である事を示したが、皮膚透過速度制御に関してはまだ検討が必要である。また実験動物を使用した烏口型MNの効果検証に関して、実験動物の作製手順を確立し、バイオ医薬品であるインスリンの経皮送達が可能である事を示した。インスリンの効果が期待通りに現れなかった原因は、その後の検討により明らかにする事ができた。しかし現時点ではMN単独での結果であり、本研究課題でのMNと物理的透過促進法の併用はまだ検討を開始していない。以上の結果から、おおむね順調に進展していると判断した。 本研究課題で得られた成果を社会へ還元するため、2019年7月に開催された第35回日本DDS学会学術集会でポスター発表を行い、学術雑誌へ投稿するため英語論文を執筆している。一方、研究分担者である伊藤は、2019年9月に開催された精密工学会秋季大会学術講演会で発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの2年間で、MNまたは電場単独によるバイオ医薬品の皮膚内送達促進を示す事ができた。これは本研究課題で提案した烏口型MNにおける塗布薬物の増加、ならびに皮膚穿刺性の向上により可能であった。また電場においては高分子化合物の皮膚内送達促進には表皮内への化合物送達を増加させる事により可能であった。しかし電場によるバイオ医薬品の皮膚透過速度制御(透過速度の増減)が、現時点では困難である可能性が示唆されている。そこで本研究目的であるMNと物理的透過促進法の併用によるバイオ医薬品の皮膚透過促進を達成するため、最終年度である今年度は以下の方針で研究を進める予定である。まず電場の適用時機、皮膚処理の方法、電流の種類(直流と交流)、電流の向き、電流値などのパラメータと皮膚透過促進効果との関係を継続して検討し、速度制御の可能性を明らかにする。電場での透過速度制御の可能性が低い場合、他の物理的透過促進技術(超音波や磁場など)による透過速度制御の可能性を検討する。その後、MNと物理的透過促進法の併用に関してin vivo条件での検討を行う。ここでは、併用方法や併用するためのMNと電場発生装置を合わせた機器を新規に発案、作成を行い、最終的に動物実験による効果の立証まで予定している。機器の作成では、大学所属のマイクロ化総合技術センターや金属金型センターなどを利用する。
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