MR Fingerprinting(MRF)は従来のMRIの撮像方法とは方法論が全く異なり、T1、T2の定量値を測定できる撮像技術であり、この手法を用いて新たな脳腫瘍の組織診断法の開発を目指した。さらにこのMRFを用いて、ナビゲーション併用低侵襲手術システムを確立することが本研究の目的とした。また、手術において脳腫瘍の組織を採取する場合には組織の採取部位の正確性を向上させるだけではなく、周囲の脳組織を温存するための脳機能のモニタリング法を確立する必要があった。 令和2年度は当施設においてボランティアおよび脳腫瘍の症例を用いてMRFを行う予定で、MRFのソフトウェアを当施設に導入するためにMRFを制作している企業と交渉していた。共同研究を行っているドイツのエッセン大学では、製品化される前のソフトウェアを使用していたが、今回このソフトウェアが製品化されることが決まったものの、製品化の時期は未定で、企業からは当院でのソフトウェアを導入の許可が下りなかった。また、ドイツへ渡航し、エッセン大学との共同研究を進める予定だったが、コロナ禍で予定をキャンセルせざるを得なかった。 当施設ではMRFの撮像ができないため、術中の病理診断との整合性を得るための正確かつ安全な組織採取法の確立を進めた。術中モニタリングは組織採取を安全に行うために必須であり、その開発を行った。 今年度は眼球運動のモニタリング法および経頭蓋刺激による顔面神経のモニタリング法について新たな手法を開発した。眼球運動モニタリングについてはこれまで報告されていない滑車神経のマッピングが可能になった。顔面神経モニタリングでは早期に顔面神経麻痺が出現するかどうか把握が可能となり、長期的な機能予後も推定できるようになった。
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