研究課題/領域番号 |
18K12122
|
研究機関 | 沼津工業高等専門学校 |
研究代表者 |
鈴木 尚人 沼津工業高等専門学校, 機械工学科, 准教授 (50551066)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 網膜電図 / マイクロペリメトリー / 視感度低下 / 網膜層の特定 |
研究実績の概要 |
研究代表者は令和元年度に高等専門学校機構の在外研究員制度を利用して、米国スタンフォード大学医科大学院に1年間留学することになった.所属先は眼科学専攻のDr. David Myung研究室であり,身分は客員研究員(Visiting Scholar)であった.研究代表者はスタンフォード・ゲノム・テクノロジー・センター内の1室で,ノートパソコン2台,32インチディスプレイ1台,電気計測装置一式,メンテナンス工具等を日本から輸送して,ERGの開発と実験を行うことが出来た. 従来のERG背景は37個の配列であり,計測範囲が狭かった.しかし,全ての節点を方程式によって計算出来るように改良し,32インチディスプレイを用いて全配列330個を表示した.また,ERGの背景画像を18.0~30.0mmの眼軸長に調整可能とし,成人のほとんど全ての人に対応できるようになった.次に,我々は周波数10~100Hzまでの変化に対し,ERG配列の作製による表示遅れ時間を最小限に編集出来た.また,刺激配列は7個の配列とした.錐体の網膜内分布に対応するため,刺激配列の大きさは中心部からの距離に応じて拡大する構造にされた.そして,マルチファンクションI/Oデバイス,増幅回路,ノッチフィルター回路,シールドシート,皿電極及び耳クリップから構成される電気計測装置を開発した. 背景配列上に7個の刺激配列を重ね合わせた重畳式ERGは眼底上の特定の点において視感度低下を起こした網膜層の病変部を判別する可能性を示した.本研究の結果はスタンフォード大学医科大学院眼科学専攻において,臨床前の動物実験や病院での臨床評価を行うのに十分な価値があると評価された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)新しい ERG 背景の開発:平成30年度までのERGの背景は37個の配列であり,予め与えられた数値データを用いて作製されていた.そこで,C++プログラムは全ての節点が方程式によって計算出来るように,完全に変更された.開発された背景画像全体は11層を持ち,330個の配列が存在する. (2)眼軸長への対応と配列表示遅れ時間の減少:従来のERGソフトウェアはガルストランド模型眼の眼軸長22.5mmに調整された背景画像を表示していた.ERGの背景画像を18.0~30.0mmの眼軸長に調整可能とすれば,成人のほとんど全ての人に対応できる.そこで,我々は人眼と32インチディスプレイの間の拡大率を計算し,ERGソフトウェアに反映させた.次に,ERGソフトウェアは配列の作製に時間を必要とするため,表示遅れ時間を生じる.周波数10~100Hzまでの変化に対し,ソフトウェアは遅れ時間を最小限にするように編集された. (3)新しいERGソフトウェアの開発:刺激配列は7個の配列を使用する.ここで,錐体の網膜内分布は中心窩で最も密度が高くなり,中心窩から外れ周辺部に行くに従い,その密度は急激に減少する.そこで,刺激配列の大きさは中心部からの距離に応じて拡大する構造にされた. (4)電気計測装置の開発:装置はマルチファンクションI/Oデバイス,増幅回路,ノッチフィルター回路,シールドシート,皿電極及び耳クリップから構成される. (5)結論:背景配列上に7個の刺激配列を重ね合わせた重畳式ERGは眼底上の特定の点において視感度低下を起こした網膜層の病変部を判別する可能性を示した.本研究の結果はスタンフォード大学医科大学院眼科学専攻において,臨床前の動物実験や病院での臨床評価を行うのに十分な価値があると評価された.
|
今後の研究の推進方策 |
研究代表者は令和元年度に米国スタンフォード大学医科大学院に1年間留学し,スタンフォード大学の研究者と共に意見交換しながら,ERG開発を進めることが出来た.その際のアドバイスとして,背景配列と刺激配列の間の領域は不規則な配列を使用せず,規則正しい配列を使用する必要性があるとされた. 令和2年度の研究は規則正しい配列を使用する方法を検討するか,又は背景と刺激配列の2重構造を持つERGソフトウェアを開発する予定である.次に,我々が開発した実験装置は移動式ERG,マイクロペリメトリー,眼底カメラの3種類の機能を持つ.移動式ERGはマイクロペリメトリーにおける検査点位置と多焦点六角刺激配列の中央部の位置を重ね合わせたものである.赤外線画像を撮影する場合は赤外線カメラとハロゲンランプを用い,カラー画像を撮影する場合はカラーカメラとストロボに取り換えて,撮影を行う.8インチモニターは輝度が250cd/m2であり,視野計としては輝度が低い. 令和3年度の研究は眼科実験装置を移動式ERGから新しいERGに変更できるようにし,かつ視野検査の仕様に近づけるために高輝度のモニターを使用した改良を行う. 最後に,令和4年度の研究は被験者に対し,新しいERGと視感度を計測する.各検査点における網膜視感度はハンフリー視野計と同程度であること,ERG波形のデータはa波,b波,c波,PhNR,律動様小波等を確認し,健常者のデータとして整合性が取れていることを評価する.本研究の実験系が健常者でデータ取得出来ることを確認した後,網膜色素変性,緑内障,黄斑ジストロフィ,AZOOR,MEWDS等の患者に対し,マイクロペリメトリーとERGを計測する.そして,取得したデータとその病気特有の波形データを照合する.その波形より網膜の原因層を調査し,視感度低下の原因となる網膜層を特定する方法を評価する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者は令和元年度に高等専門学校機構の在外研究員制度を利用して,米国スタンフォード大学医科大学院に1年間留学した.スタンフォード大学眼科学専攻のDr. David Myung研究室でパターン形状可変式ERGの開発と,ERG開発に必須となる網膜及び角膜の細胞や生体組織の勉強を行った.ERG開発は日本からスタンフォード大学に輸送した,ノートパソコン2台,32インチディスプレイ1台,電気計測装置一式,メンテナンス工具等の実験装置を使用して行われた. また,研究代表者は幸運にも、公益財団法人鈴木謙三記念医科学応用研究財団の平成30年度調査研究助成金に採択され,100万円を受領出来ることになった.この助成金はパターン形状可変式ERGに関係するテーマであるため,スタンフォード大学に輸送する実験装置を購入する資金とされた.また,高等専門学校機構の在外研究員費の一部も研究費として利用することが出来た. そのため,研究代表者は令和元年度に科学研究費を使用していない.また,「産前産後の休暇,育児休業の取得又は海外における研究滞在等に伴う科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)補助事業期間延長承認申請」を行い,1年間延長させて頂くことになった.上記の理由から,次年度使用額が生じることになった.
|