研究課題/領域番号 |
18K12129
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
今井 國治 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (20335053)
|
研究分担者 |
藤井 啓輔 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 講師 (40469937)
池田 充 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (50184437) [辞退]
川浦 稚代 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 講師 (60324422)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 非イオン性ヨード製剤 / イオン性ヨード製剤 / ヨード造影剤の副作用 / 水クラスタによるシールド効果 / 造影剤間の交叉反応 / 造影剤の薬剤特性 |
研究実績の概要 |
本申請研究では、脳血管DSA検査を対象に、被ばく線量増幅効果を含む造影剤の副作用、造影剤の効能である造影能、DSA画像の画質の3要因ついて詳細な検討をことである。そこで本年度は、ヨード造影剤の副作用発症軽減機構について量子化学的に考察し、さらにヨード造影剤の生理学的薬剤特性をもとに、造影剤間の交叉反応について数理解析的に検討した。 本検討で対象とした造影剤は市販の非イオン性ヨード製剤であり、ここで行った解析は、シュレーディンガーの波動方程式に基づく数理解析とクラスター解析による数理解析で、比較のためイオン性ヨード製剤も含めて解析を行った。 非イオン性製剤はイオン性製剤よりも副作用の発現が低いと言われており、その主な要因として、造影剤分子の親水性側鎖が疎水基をシールドするためだと考えられている。しかし、これが実際に起こっているのかは定かではない。そこで、造影剤分子の状況を量子化学的に解析したところ、親水性側鎖が疎水基を直接シールドするといった安定配座は一切認められず、親水性側鎖を起点とする水クラスターが疎水基をシールドしていると言う特筆すべき結果を得た。また、この水クラスター数と副作用発症率との関係を求めたところ、両者には非常に良い相関があり、疎水基付近に存在する水クラスターが造影剤の副作用発症軽減に深く関与していることが示唆された。 ヨード造影剤の交叉反応は、副作用の既往歴のある患者を対象に造影検査を実施する際に留意すべき重要な事項である。しかし、どのような造影剤の組み合わせで、交叉反応が起こるかについてはあまり検討されていない。そこで、ヨード造影剤の生理学的薬剤特性をもとにクラスター解析を行い、造影剤間の類似度を定量的に明らかにした上で、交叉反応との関連性について検討した。その結果、ヨード造影剤の生理学的薬剤特性の類似性と交叉反応発症との間には密接な関連があることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時の予定では、採択初年度、DSA検査専用脳血管ファントムを作成し、それを用いて、被ばく線量及び画質の評価を実施する予定であったが、昨年度の報告書で述べたように、ファントム作成に遅れが生じたため、これらの検討は一年遅れとなった。さらに、今年度、画質解析を担当する共同研究者の一人が定年退職ということもあって、計画通りなら、被ばく線量評価から検討する予定であったが、急遽、予定を変更して、画質評価から行うことにした。ノイズ及びストリークアーチファクトについては、申請代表者が以前の科研研究で考案した定量評価法を用いて検討できるが、DSA画像のようなディジタル画像の鮮鋭度や回転断層画像で問題視されるビームハードニング効果に関しては、現在のところ、その定量評価法は存在しない。そこで、確率過程論や金融工学等で用いられている理論を駆使し、鮮鋭度に関しては、空間周波数特性をもとにROC解析的手法による定量評価法を考案し、ビームハードニング効果については、確率微分方程式による評価法を考案した。これらの方法の妥当性については、視覚評価との対応で、適切に評価できることを確認し、現在、これらの方法を含めて、DSA画像の画質評価を実施している。その進捗状況は順調に進んでいる。 次に、副作用に関してであるが、「研究業績の概要」で述べたように、これまでにない知見を本研究で見出すことができた。さらに、副作用に関する研究が、予定以上に進んだため、申請当初には計画していなかった造影剤による血圧低下の検討を開始した。その内容は造影剤分子とタンパク質との相互作用をもとに、どのような機序で血圧低下が起こるかと言うもので、現段階の解析結果によれば、アンギオテンシン変換酵素との関連性を示唆するものとなっており、この結果は動物実験による報告を支持する内容となっている。 以上のことから、本申請研究は順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度の研究計画は以下の通りである。 (1)脳血管ファントムを用いた被ばく線量測定、(2)ヨード造影剤の副作用に関する分子動力学的解析 まず、(1)の項目についてであるが、「現在までの進捗状況」で述べたように、DSA画像の画質評価を先回しにした関係、被ばく線量の実測は行っていない。それ故、次年度では、被ばく線量評価を行うが、その具体的な測定方法については、昨年の報告書通りに行う予定で、市販の非イオン性ヨード製剤をファントム内の模擬血管に注入し、その下で、造影剤量と被ばく線量との関係を測定する。さらに、その結果とシミュレーションとの比較を行い、造影剤による被ばく線量増幅効果について詳細に検討する。 次に、(2)の項目についてであるが、本年度は、副作用発症頻度とシールド効果との関係や造影剤間の交叉反応と言った検討を行い、これまでにない知見や臨床的に有益な情報を提供することができた。次年度は、「現在までの進捗状況」で述べたように、重篤な副作用である血圧低下に関する検討を継続して行う予定である。さらに、副作用の中でも頻度の高い嘔吐についても、分子動力学的に検討を行う予定で、これに関しては、抗がん剤の一つであるシスプラチンの薬剤特性と比較して行う。その理由として、シスプラチンもヨード造影剤と同様、かなりの頻度で嘔吐を引き起こすこと、さらに、その原因が、ある程度解明されていることが挙げられる。つまり、この原因がヨード造影剤における嘔吐発現と何らかの類似性があるのではないかと考えている。そこで、申請者らは、既にシスプラチンの薬剤特性に関する解析を始めており、これまでに報告されているシスプラチンの薬剤特性を量子化学的に再現できることを確認している。今後は、これをもとに、シスプラチンと嘔吐を引き起こす化学受容体との相互作用を分子力学的に解析し、その後、ヨード造影剤に関する検討へと進める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの進捗状況」で述べたように、申請当初の計画なら、被ばく線量評価から検討する予定であったが、今年度、画質解析を担当する共同研究者の一人が定年退職ということもあり、急遽、予定を変更して、画質評価から行うことにした。そのため、脳血管ファントムによる被ばく線量の測定は実施しておらず、この解析で必要となる線量計も購入していない。今回生じた繰越金は、線量計購入のためのものであり、次年度、計画通り購入を考えている。(現在、見積書を請求している。)また、今春、学会発表のために準備していた学会出張費が、新型コロナウィルス関係で執行できなくなり(学会の現地開催中止)、その分の未使用経費がこの繰越金に含まれている。これについても、線量計購入経費に充当する予定である。
|