研究課題/領域番号 |
18K12131
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
濱田 浩幸 九州大学, 農学研究院, 助教 (80346840)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 慢性血液透析 / 心筋細胞拍動能 / 医療技術評価 / 拍動リズム / 収縮力 / 電気生理学的数理解析 / 計算機シミュレーション |
研究実績の概要 |
慢性血液透析患者群の3割強が治療中の突然の心停止を経験しており、透析治療中の心負荷を軽減する『心機能にやさしい透析治療システム』の開発が全世界で求められている。本研究では、電気生理学に基づく数理解析技術を用いて、現行の慢性血液透析治療が心筋細胞におよぼす負荷レベルを定量的に評価し、治療中の心筋細胞内カルシウムイオン循環動態を保全する方策を構築することを目指した。 2019年度は、前年度に構築した新奇数理モデルを用いて、血漿カルシウムイオン濃度よりも低いカルシウムイオン濃度の透析液を適用する治療の数値シミュレーションを実践し、治療中の心筋細胞拍動能の変動を詳細に分析した。まず、以下の巨視的な所見を得た。1)治療中の血漿ならびに間質液カルシウムイオン濃度は経時的に低下した。2)治療中の拍動リズムは有意にやや低下したが、大きく乱れず、不整脈の出現はなかった。3)収縮力は治療中に最大20%の低下を示した。次に、上記3)の収縮力の低下機序を探った。治療中に間質液カルシウムイオン濃度が低下すると、Na/Ca exchangerの内向きイオン電流の有意な上昇が起こり、細胞内のカルシウムイオン量の減少が誘導された。そこで、治療中のNa/Ca exchangerの輸送能を阻害すると、細胞内のカルシウムイオン量の減少速度が抑制され、収縮力の低下は軽減された。 Na/Ca exchangerの阻害剤の開発は透析治療中の収縮力低下に大きく貢献すると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度に、治療中の体液カルシウムイオン濃度の経時変化を表現する数理モデルを構築し、これと中心洞房結節細胞と心室筋細胞の拍動現象を表現する数理モデルを統合した。2019年度に、この統合モデルを用いて、治療中の血漿および間質液のカルシウムイオン濃度の推移が中心洞房結節細胞の拍動リズムならびに心室筋細胞の収縮力におよぼす影響を評価した。そして、治療中の心筋細胞拍動能の低下を誘導する要因を特定し、拍動能低下を回避する方策を提示した。以上の成果は、当初計画よりも進捗しているものである。
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今後の研究の推進方策 |
治療中の体液カリウムイオン濃度の経時変化を表現する数理モデルを構築し、これと過年度に構築した中心洞房結節細胞と心室筋細胞の拍動現象を表現する数理モデルを統合する。そして、この統合モデルを用いて、治療中の血漿および間質液の電解質濃度の推移が中心洞房結節細胞の拍動リズムならびに心室筋細胞の収縮力におよぼす影響をシステム論的に精査し、全世界で求められている『心機能にやさしい透析治療システム』の基盤を構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大予防措置のため、年度末の学術集会での発表ならびに研究打ち合わせなどの出張を伴う研究成果報告の機会を損なった。その旅費の執行がなされなかった。次年度において、コロナウイルス感染拡大予防措置が解除された後は、研究成果の公表と意見交換に注力し、研究の進捗を加速する。
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