研究課題/領域番号 |
18K12134
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
佐瀬 一洋 順天堂大学, 医学部, 教授 (00420828)
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研究分担者 |
大津 洋 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 臨床疫学研究室長 (40372388)
米本 直裕 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 精神薬理研究部, 客員研究員 (90435727)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 医療技術評価学 / 規制科学 / リスク・ベネフィット評価 / リアル・ワールド・エビデンス / リアル・ワールド・データ / 国際レジストリ連携 / レセプト・データベース / アンメット・メディカル・ニーズ |
研究実績の概要 |
本研究は、医療技術評価学における最重要課題の一つである「イノベーション推進と安全性確保の両立」を目標に、医療機関における国際レジストリ連携(iCRN)の意義と課題について検討している。四年目の今年度は、POC研究の実践を通じ、複数の原著論文の投稿および総説等を出版することができた。 これまで我々は、米国医薬食品局(FDA)の産官学連携MDEpiNet、および国際医療機器規制当局フォーラム(IMDRF)の患者レジストリ作業部会を通じ、iCRNの重要性について研究を進める中で、FDAが提唱するリアル・ワールド・エビデンス(RWE)という新概念と、特にリアル・ワールド・データ(RWD)すなわち日常業務からルーチンに収集される多様なデータ源の信頼性と妥当性を目的に応じ(Fit-for-Purpose)評価することの重要性を明らかにしてきた。 今年度は、アンメット・メディカル・ニーズに対するRWE研究として、RWD源の一つとして保険請求データベースを選び、POC研究としてその信頼性と妥当性を検討した。具体的には、大動脈緊急症、妊娠と薬、および腫瘍循環器学というアンメット・メディカル・ニーズを対象に、我が国における最大のデータベースの一つである日本メディカルデータセンター(JMDC)の保険請求データベースを用いて、その信頼性と妥当性を検討した。 具体的には、(1) 大動脈緊急症:腹部大動脈瘤治療における開腹手術と血管内治療に注目し、その短期・中長期アウトカムについて検討した(BMJ Surgery, in submission)。(2) 妊娠と薬:分娩直前の抗うつ薬投与に注目し、母児のアウトカムについて検討した。(J Affect Disord, in press)。(3) 腫瘍循環器学:補助化学療法を受けた乳がん患者に注目し、心毒性について検討した。(BMJ open heart, in submission) 最終年度は、保険請求データベース以外のデータ源を含めたRWD/RWE研究を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画では、初年度は現状調査、2年目はPOC研究計画、3年目以降は具体的なPOC研究の実践を予定している。 初年度は先行研究(基盤C#25350585)で構築した国際レジストリ連携(iCRN)の応用として、国内外の現状を調査した。2年目は国内外のキーパーソンとともに、iCRNを発展させた概念であるリアル・ワールド・エビデンス(RWE)の実践として、リアル・ワールド・データ(RWD)を用いたPOC研究を計画した。3年目にはRWDの医療機関における意義として、代表的なアンメット・メディカル・ニーズであるプレシジョン・メディシン、革新的医療機器開発等について、研究を進め、成果の一部を公表した。 4年目を迎えた今年度は、昨年度に続き世界的なパンデミックの影響で海外の学会への参加機会は失われたが、逆に国内外のキーパーソンとWeb会議やメール等で頻回に交流する機会があり、各データ源の利点と欠点を検討した上で、国民皆保険制度の下で出来高払いにより請求漏れが少ないというメリットを活かすことで、日本の保険請求データベースの信頼性と妥当性を検討するというPOC研究の実践に集中することができた。 その結果、(1)大動脈緊急症、(2)妊娠と薬、(3)腫瘍循環器学というそれぞれ典型的なアンメット・メディカル・ニーズについて、既存の研究グループとの研究協力が順調に進み、その一部は原著論文がアクセプト(in press)、あるいは投稿中(in submission)と、着実に成果が挙がりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、医療技術評価学として、国際規制調和の観点から国際レジストリ連携(iCRN)から発展したリアル・ワールド・エビデンス(RWE)という新しい概念に注目し、その意義と方法論について検討するとともに、POC研究を計画して実践している。 人間医工学における規制科学では、世界医師会ヘルシンキ宣言に示された通り「医学の進歩は最終的にヒトを対象とした臨床試験に一部依存せざるを得ない」ことから、臨床研究の科学性・倫理性・信頼性を担保するための世界基準すなわちGCPが大きな役割を果たしている。 最近の国際規制調和における大きなトピックであるGCP刷新(ICH-E6(R3)、ICH-E8(R2))では、情報通信技術(ICT)の発展を踏まえてデータ源と方法論の多様化に対応することを求めており、米国FDAがRWE/RWDという新概念を提唱するのみならず産官学連携でPOC研究を進めつつあることは注目に値する。 一方、我が国では1998年にいわゆる新GCP(当時)として「治験」を対象ICH-E6(R1)への対応が始まったものの、最近施行された臨床研究法はその対象を「特定臨床研究」に拡大するのみであり、GCP刷新への対応は遅れている(大津ほか、臨床評価 2018;46(2),303-330)。 本研究課題では、これまで先行研究(基盤C#25350508)で構築した医療機器の国際レジストリ連携(iCRN)のノウハウおよび人的ネットワークをRWE/RWD研究へと発展させ、更に国内外におけるアンメット・メディカル・ニーズ研究とのPOC研究を実践することで具体的な成果物につなげることで、GCP刷新の時代に対応したエビデンス作りにも貢献したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に投稿した原著論文がmajor revisionまで進んだため、論文投稿料としての支出を予定した。しかしながら、acceptが年度をまたぐことが確定したため、次年度使用額が生じた。
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