本研究課題では、ヒト細胞加工製品中に混在する造腫瘍性細胞/形質転換細胞を軟寒天コロニー形成試験よりも簡便かつ効率的に検出するための新たな試験系の確立を目的とし、新規ポリマーLA717を添加した培地を利用する新しい三次元細胞培養法を評価した。 間葉系幹細胞(MSC)のような正常細胞は、通常の液体培地を用いて低接着性培養器材上で浮遊培養すると凝集しコロニーを形成するが、LA717含有培地(LA培地)での培養では細胞は凝集せずに分散した。分散した正常細胞は三次元環境では足場がないため増殖しないのに対し、足場非依存的増殖能を有するがん細胞(HeLa細胞)はLA培地中でも増殖しコロニーを形成した。三次元培養下での単一細胞からのコロニー形成率を指標として、HeLa細胞の足場非依存性増殖能を詳細に解析した結果、従来の軟寒天培地に比べ、LA培地ではより短期間かつ効率的にコロニーを形成することが分かった。また、他のがん細胞株(HEK293等)でも同様の結果が確認された。 がん細胞由来コロニーは、細胞内代謝活性に感受性を持つ蛍光プローブ等を用いて染色することが可能であり、さらに、コロニーの蛍光強度、サイズ、形状を画像解析することで、共培養下にある正常細胞とがん細胞由来コロニーとを精度良く識別することも可能であった。 以上の結果は、正常細胞中の形質転換細胞の混在評価における新規培養法の有用性を示唆していた。そこで、被検細胞を微小区画へ分画して三次元培養を実施し、各画分におけるコロニーの有無をデジタルデータとして集計し、混在形質転換細胞の高感度検出を可能とする手法を検討したところ、MSC中に混入させた微量のHeLa細胞(混入率0.0001%)を検出することに成功した。 新規三次元培養法を応用した造腫瘍性試験は、ヒト細胞加工製品の品質・安全性の確保に大きく貢献し、開発促進に繋がることが期待できる。
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