近赤外光を用いた生体計測装置(NIRS装置)の開発や性能検査において、光学的生体模擬試料(ファントム)が用いられている。従来のファントムはPOMやエポキシ樹脂などの硬い樹脂を用いた固体ファントムや牛乳などの散乱体を含む液体にインクなどを混ぜて生体の光学特性を模擬した液体ファントムが使用されてきた。近年、NIRS装置は信号解析による研究用途のみならず、てんかんの焦点計測、精神疾患鑑別補助などの臨床診断、脳機能計測など、診断や評価用途へと発展し、日本発の医療機器として2015年には国際標準として策定されるなど、精度検証の必要性が不可欠となっている。一方で、装置の性能検査用ファントムとしては、工業的に扱いやすいこともあり、固体ファントムには硬い素材を使用しているため、光ファイバとファントムの接触面や素材間に空隙が生じるなどの問題があり、液体ファントムでは容器の影響や液漏れや持ち運びの不便さ、変質しやすいなどの問題から工業的に使用しにくいという問題がある。これらの問題を解決する材料として、やわらかい樹脂を使用した新たなファントムの開発を目指し、開発を行った。 まずは素材探索のため、未重合のシリコン樹脂やエポキシ樹脂などの樹脂を数種類準備し、散乱体となる酸化チタンなどの粒子や吸収体として染料や顔料などについても数種類集めた。これらの材料を、本件で購入した強力な超音波洗浄機などを利用して、散乱体・吸収体を均質に混入し、さらに重合反応させ、均質な固体ファントムの試作を行った。シリコンなどを用いた柔らかい樹脂材料へ散乱体・吸収体を均質に混入させるのは非常に困難であり、かなりの時間を要したが、光学的に薄い場合には、比較的均質に混入させる手法を開発することができた。またそれらをもとに重合反応させ、試作することにより、光学的に薄いファントムについての作製手法を確立することができた。
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