これまで、網膜色素変性症で失明した患者に対して、網膜、視神経や大脳に電極を埋植し、視覚を回復する人工視覚の研究が国内外で行われている。人工視覚では電気刺激により視覚を誘発させ視機能を向上させるが、人工視覚を埋植して通電した症例では、人工視覚システムを稼働させていないときの視機能が、埋植前と比べて上昇していることがよく経験される。これは、電気刺激自体に神経賦活化効果があるためである。 本研究の目的は、網膜刺激型(STS)及び視神経刺激型(AV-DONE)人工視覚による治療が、視覚障害者の原因疾患の上位を占める緑内障、網膜色素変性症、糖尿病網膜症に対して、人工視覚で使用する電気刺激を用いた新しい治療法の可能性を検討することと、治療に用いることができるより低侵襲な刺激電極の開発を行うものである。 これまでに人工視覚の有効性を確認するためのEEP(STSでは、神経節細胞から大脳皮質視覚野までの視路の評価。AV-DONEでは、視神経から大脳皮質視覚野までの視路の評価)、VEP(視細胞から大脳皮質までの視路の評価)及びERG(網膜細胞の機能評価)を用いて視機能評価系を樹立した。また、ラットの急性緑内障モデルの作成のために、高眼圧モデルを作成したが、高眼圧が数日しか保てず、完全な視機能を失うまでに至らなかったが、慢性の脳波の観測系を作成し、長期にわたってVEPを評価することが可能となった。 低侵襲な刺激電極については、市販の直径25umの刺激電極で刺入しやすいタイプのものを購入出来なかったが、今年度は研究協力者が作成した直径25umの刺激電極を用いて刺激を与えることにより、従来型の刺激電極と同様の誘発電位を得ることが出来た。このことから、刺激電極の体積を従来型よりも4分の1に小さくすることが可能となり、より侵襲が少なく、分解能も高い刺激電極が出来る可能性がある。
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