研究課題/領域番号 |
18K12144
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研究機関 | 桐蔭横浜大学 |
研究代表者 |
片山 富美代 桐蔭横浜大学, スポーツ健康政策学部, 教授 (70309649)
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研究分担者 |
杉本 恒美 桐蔭横浜大学, 工学研究科, 教授 (80257427)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | コロトコフ音 / 波形解析 / 人工知能 / AI解析 / 血圧測定 |
研究実績の概要 |
2009年以来、近隣のディケアセンターを利用する高齢者を主な対象に、延べ600人超のコロトコフ音の波形を測定し、蓄積してきた。目標はコロトコフ音の分析にAIを援用することで、手軽に使える日常健康管理指標の提案である。今年度は、AI援用の前段階として重要な2課題の解決に力を注いだ。終了までにはもう少し時間を要するがそれぞれ進捗している。 1点目は、前年度に中断していた“頭打ち”(ピークがカットされた)データの修復と、データに含まれるノイズの除去である。頭打ちについては、スプライン関数を使った補間で大方のデータ(頭打ち174データの95%)を修復できるめどがたった。また、後者のノイズはローパスフィルタで除去できることがわかった。2点目はAI援用前の最重要課題で、波形と疾病の対応表作りである。すなわち、コロトコフ音がある特徴的な波形をしている場合は××症の兆候である、といった波形と疾病の対応させることである。波形-疾病を対応表にして人工頭脳(AI: Artificial Intelligence)に学ばせたい。この対応表は難度が高く、調べる限り報告例はなく、本研究で主眼とするものである。このため、きちんとした波形の準備が大切で、上述の波形の修復、ノイズの処理法に時間を費やした。昨年度の着手遅れを挽回し、波形修復、ノイズ処理にめどが立ったことから、目下、この対応表作りが進行中である。内容的には、処理するデータ量が膨大であること、被験者の幅(年齢、健康状況,等)や、症例の幅(測定時に確認した既往症などの情報:不整脈、高血圧、脳梗塞、等)が極めて広いことから作成に時間を要してきている。 これまでの進捗として、経年変化に伴うコロトコフの変化や、異常とみられるコロトコフ音の抽出結果などを、2020年11月のBMEシンポ、及び2021年2月の電気情報通信学会の研究会にて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020(令和2)年度は、実績で記したように、AI解析の前段として重要な2課題を進めてきた。ここで、遅れは挽回してきつつあるものの計画は完了していない。最大の理由は年度半ばに波形解析専門の研究スタッフが退職したことである。急ぎ、後任を面談、採用したものの、この間に半年以上の空白が生じた。後任は解析経験があり、解析そのものはスムーズな引継ぎはできているが、医療関係知識はなく、コロトコフ音や、疾病に関する最低限必要な知識(含む、関連文献)は並行して勉強してもらったため、立ち上がりに時間を要した。 もう一つの理由は、前任者が進めてきたが、退職により中断していたデータの修復問題である。この問題については、昨年度初期段階で技術的な方向性はあったものの、実際、スプライン関数を使った修復法を選択、検証し、プログラム化するまでにはかなりの時間を要した。 以上が遅れの主な理由であり、現在、AI適用前の最も重要な課題である“対応表作り”を行っている。この業務は先例がなく、ルーチン的に進むものではないため、一気に挽回は図れないが、最優先課題として進めている。
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今後の研究の推進方策 |
上述の2つの主課題の中で、1つ目の波形の修復とノイズの除去は目処が立った。そこで、2021(令和3)年度は、2つ目の、先例のない挑戦課題である“波形と疾病の対応表作り”を最優先にして取り組む。対応表がそろえば、AIの領域は操作例も充実してきていることから適用へ展望が開けるものと考えている。 この“対応表”作成では、今年度は、既往症をもつ被験者に絞った分析に集中したい。これは昨年度のやり方と逆のアプローチである。昨年度は、異常と見られるコロトコフ音を抽出し、3種類(①聞きにくい、不明瞭な、②濁っている、③リズム感がない)に分類した。結果は、それぞれ80サンプル程度(全600中)まで絞り込めたものの、80サンプルはまだ大きく、中には種々の既往症の被験者が含まれ、また、一部、健常者とみられる人も混じっているという問題があった。 そこで、今年度は、逆に、対象とする既往症を決め(それを訴える)被験者たちに共通した波形の特徴を抽出することで進めたい。例えば、心臓、血管系の既往症を訴える人のデータは(不整脈、心筋梗塞、動脈硬化など)優に100を超えるが、心筋梗塞(狭心症も含め)に限れば、わずか7名(ただし、測定延べ36回)のみとなる。そこでこれら7名のコロトコフ音の波形に集中することで、共通した波形の特徴が見い出せるものと考えている。特徴としては、波形の形状そのものに加えて、その周波数スペクトルの形状などまで広げて考え、丁度、指紋や顔面認証などと同様、関連するパラメータを同定したい。以上、まずは1つの症例に絞り、特徴を抽出するが、順に他の症例にも拡大し、“対応表”がそろい次第AI化に着手する。また、コロナ禍の終結を待って、近隣のディケアセンターでのコロトコフ音計測を再開するが、ここでは新たに作成した対応表の検証も行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が発令されたことに伴い、毎年実施してきた近隣のディケアセンターにおけるコロトコフ音取得を中断せざるを得なかった。さらに大学における講義等もすべてオンライン対応とする必要があったため、その授業準備および学生対応等で大半の時間が費やされてしまったというのが実情である。そのような状況下においても、過去のコロトコフ音波形に関するデータ解析はある程度進めることができたものの、AI解析を実施するまでには至らなかった。そのため、研究期間の延期申請を行うことにより、次年度に残予算を繰り越すこととした。令和3年度は、コロトコフ音波形の解析をベースとしたAI解析を推し進めるために、主として人件費に予算を投入する予定である。
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