研究課題/領域番号 |
18K12146
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
岡田 志麻 立命館大学, 理工学部, 准教授 (40551560)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 非接触モニタリング / 睡眠覚醒リズム / NICU |
研究実績の概要 |
早期出生児の睡眠を評価する主な方法として,脳波計測が挙げられるが,終日脳波計測を行うことは新生児にとって負荷が多い.したがって,非侵襲な方法を用いて,早期出生児の睡眠と覚醒を計測する必要がある.ゆえに,早期出生児の様子を撮影したビデオから完全非接触に体動量を算出し,周囲環境のマルチセンシングした値と統合して早期出生児の睡眠を定量的に評価する手法について検討した.ビデオ撮影による体動検出と同時に,環境からの影響も考慮に入れ周囲の環境による騒音や明るさの変化を24時間計測した.出生週数25週~31週の早期出生児のデータを収集した.体動検出は保育器の天井部に小型カメラ(DC-NCR300U,Hanwha Q Cells Japan製)を設置して計測,保育器内の音圧は騒音計(LA-5560, 小野測器製)を,保育器内の照度は保育器の天井に照度計(T-10MA,コニカミノルタ)を配置して計測した.撮影した動画から差分法を用いて,早期出生児が動作した面積と外的な処置などの影響を受けた際の動作量を算出した.睡眠に影響を与える周囲環境(外的要因)と出生週数と体重(内的要因)と早期出生児の睡眠の関係を,重回帰分析を用いた.一日の睡眠の度合いを示す一日の体動回数(終日体動回数)を目的変数に,夜間の処置の回数(周囲環境),昼間の処置の回数周囲環境,出生週数と体重を設定した.決定された重回帰式によると昼間の処置回数が新生児にとって睡眠の妨げとなる一方で,夜間の処置が不足していることによって十分に眠ることができないことが判明した.加えて,出生週数が増加するほどよく新生児が眠ることが判明した.これを考慮に入れ,睡眠の指標を正解データとした機械学習を実施し,週数や処置の回数に応じた睡眠の状態の推定式を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この年度では主にビジュアルセンシングにより得られた対象児の体動により,睡眠―覚醒サイクルを推定するアルゴリズムを確立することであった.画像処理により,運動の頻度や時間間隔をパラメータとして用いて機械学習を行うことで新生児の睡眠―覚醒サイクルを推定することが可能となった.また,この情報をもとに,医療スタッフによる処置や保護者の介入が早期出生児の睡眠を妨げる要因になるかを検討することができた.睡眠覚醒サイクルを検出したところ,夜間の処置では早期出生児の夜間の睡眠が長い時間にわたって中断されることが確認された.早期出生児の睡眠は処置や周囲環境の変化によって中断してしまうが,処置が少なければよいということではなく,処置が少なくても睡眠することができないということが判明した.新生児がすぐ睡眠につくことができる質の高い処置を行うことが必要とされていることがわかった.以上のことからおおむね順調に進んでいるということができる.
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今後の研究の推進方策 |
計画はおおむね順調に進んでいるため,計画書からの変更はなく,今後は空気圧駆動のインフレータブルロボットを変形させることにより早期出産児の体型に応じて体位変換,体位固定を行うための施策を実施する.37週未満で早期出産された対象児は,骨格筋や内臓の機能が未熟なため,呼吸機能を確保する体位を取らせる必要がある.うつぶせにしたり,体が小さく丸まるような体位をとったりと看護師が状況に合わせてタオルやクッションを組み合わせて対象児を固定する.これについて,インフレータブルロボットでの解決を考えている.インフレータブルロボットは,空気圧により自由に変形が可能なため,新生児の体位変換や体位固定に応用可能である.本研究ではクベース内に設置可能なインフレータブルロボットを開発し,対象児の体位変換,体位固定を行うことが可能か実証実験を実施することを予定している.なお,インフレータブル構造では空気圧の調整によりインフレータブルロボットの形状を調整することができる.このことから,クベース内で一般的に設置できる形状の設計,最大変形や最小変形を決定するための空気圧アクチュエータのシミュレーションも行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
この年度では、睡眠ー覚醒リズムを体動から推定するシステムの開発を主としており計画通りではあったが、次年度に向けて年度の後半でインフレータブル構造を有したセンシングシステムの試作準備、それに伴う材料費等を計上することを予定していた。これは次年度のスタートを加速させるためである。しかし、後半のほうで、大学へ入講できないなどの問題が生じたため、次年度へ繰り越すこととなった。2020年度では引き続き、インフレータブル構造を有したセンシングシステムの試作に関する費用を中心に使用する。
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