研究課題/領域番号 |
18K12149
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
高橋 智 岡山大学, ヘルスシステム統合科学研究科, 准教授 (20236277)
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研究分担者 |
金澤 右 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (20243511)
呉 景龍 岡山大学, ヘルスシステム統合科学研究科, 教授 (30294648)
楊 家家 岡山大学, ヘルスシステム統合科学研究科, 助教 (30601588)
呉 瓊 岡山大学, ヘルスシステム統合科学研究科, 助教 (40762935) [辞退]
濱崎 一郎 岡山大学, 大学病院, 講師 (50600532)
江島 義道 岡山大学, 自然科学研究科, 客員教授 (60026143) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 両眼立体視 / 立体視不全 / VDT / 近業作業 / 運動協応 / 回復 / 単眼立体視 |
研究実績の概要 |
IT化が急速に進展し,VDT( Visual Display Terminals) が広く職場や学校に導入されて使用者が急速に増大する状況の中,VDT作業の継続による眼精疲労,視力低下,肉体的・精神的疲労が大きな社会問題になっている.対策として,厚生労働省によりVDT作業ガイドラインが定められているが,VDT作業が与える視機能等への悪影響の様態と理由の詳細については未解明で,機能回復のための有効な方法は未だ確立されていない. 本研究は,眼科疾患のないVDT作業者と若年者に両眼立体視不全が起きやすい事実を,視覚機能に異変が生じるためと捉え,これまで見落とされてきた視覚の根本的機能である「両眼立体視」・「視覚―運動協応」に焦点を当てて,VDT作業が与える負の影響の様態と発生メカニズムを行動学的,認知科学的手法を用いて究明し,機能回復方法を見いだすことを目的に行うものである. これまで10代,20代,および40代以上の各年代の合計677名の被験者についてOPUS-IIを用いた両眼立体視能力の測定を行った結果,両眼立体視不全者の割合は,40代以上では25%程度だったのに対し,10代,20代についてはいずれも6割近い被験者が不正解となり,10代,20代の若年者に両眼立体視不全の可能性があることが明らかとなった. 次に両眼立体視に影響を及ぼす単眼奥行き手がかりと奥行き認識能力,および奥行き弁別能力について調べた.奥行き弁別能力はOPUS-IIの正解者,不正解者の間に有意な差は見られなかった.単眼奥行き手がかりが異なる画像に対する奥行きの認識能力に差が見られたため,さらに詳細な解析を行っている.両眼立体画像視聴時の眼球運動についても測定を行っている. さらに20名あまりの被験者について斜位や視能力について詳細に検査を行い,奥行き立体視能力との関係を調べている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)立体視不全の様態解析と同定法の確立:10代,20代,および40代以上の各年代の被験者合計677名に対して,OPUS-IIを用いた両眼立体視能力の測定を行った結果,両眼立体視不全者の割合は,40代以上では25%程度だったのに対し,10代,20代についてはいずれも6割近い被験者が不正解となり,10代,20代の若年者に両眼立体視不全の可能性があることが明らかとなった. 2)立体視不全と目・頭・手の運動協応欠損の関係解析:両眼立体視情報に基づく手の操作能力(操作速度・正確性など)を測定し,立体視不全との関係性を明らかにする.眼科検査で使用される「pea-on-a-peg task」を参考にした測定器を開発し,複数の被験者に対して測定を行った結果,両眼,単眼による奥行き知覚能力の違い,背景の有無による奥行き知覚能力の影響を明らかにした. 3)立体視不全・心身疲労のfMRI・ERPによる解析:被験者の視覚能力を精密に調べるために,斜位や視能力に関する眼科的検査を20名あまりの被験者について実施し,奥行き立体視能力との関係を調べている.また両眼立体視画像視聴時の眼球運動の計測を行った.両眼立体視画像視聴時には輻輳だけでなく瞳孔径も変化することから,奥行き認知による目の調節機能が働いていることが確かめられた.さらに詳細に眼球運動を調べ,立体視像視聴時の奥行き認識処理の正解者と不正解者の違いについて検討する. 4)立体視不全の発生メカニズム解明と回復法の探求:左右画像分離提示方式の両眼視差提示装置を用い,被験者の奥行き弁別能力と,奥行き認知能力検査を実施した.奥行き弁別能力についてはOPUS-IIの正解者グループと不正解者グループについて有意な差は見られなかった.単眼奥行き手がかりの影響について,不正解者グループに間違いが多いが,さらに詳細な解析を行っているところである.
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今後の研究の推進方策 |
1)立体視不全の様態解析と同定法の確立:開発した両眼立体視検査装置を用いて,中心・周辺視野における両眼立体視能力を測定する.特に周辺視野における網膜像差の影響と単眼奥行き手掛かりの影響について,実験を行い,特に両眼立体視不正解者の立体視能力に影響を与える要因について詳しく検討する. 2)立体視不全と目・頭・手の運動協応欠損の関係解析:実空間における奥行き知覚能力,および目・頭・手の運動協応との関係を調べるために,運転能力検査にも用いられる三桿法を応用した装置についても検討する.さらに実空間での奥行き知覚訓練を繰り返すことによる両眼立体視能力回復の訓練効果についても検討する. 3)立体視不全・心身疲労のERPによる解析:両眼立体視健常者と不全者の脳活動を調べ,健常者,弱視者,立体視不全者の脳活動部位の違いを明らかにする.脳活動を測定する前に眼球運動を詳細に観察し,奥行き認識処理の正解者と不正解者の違いについて検討する.次に両眼立体視事態での脳計測システム(左眼と右眼の画像を独立に作成・提示可能)を開発し,両眼立体視健常者と不全者の脳活動を調べ,健常者,弱視者,立体視不全者の脳活動部位の違いを明らかにする. 4)立体視不全の発生メカニズム解明と回復法の探求:立体視不全者を対象に「遠近を変化させる刺激を提示して奥行き判断させる課題」を繰り返す知覚的学習実験を行い,改善効果と刺激条件(遠近刺激種類,提示時間条件,繰り返し回数等)の関係を組織的に測定・分析し,最大の機能回復効果を得る条件を探求する.同時に,目・頭・手の運動協応機能の回復効果も測定する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究が行動学における健常者を対象とした実験が主だったため,被験者の眼科的検査のみにとどまり,脳科学的なアプローチには着手できていない.共同研究者が担当する研究課題の実施には踏み込めなかったため,研究費使用を持ち越す状態となった.2020年度以降は眼科的,脳科学的検査を実施することにより,これらの経費を使用する予定である.
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