本研究の目的は,包括的に技術的課題を解決し,磁界方式人体通信を用いたウェアラブル端末間通信の実用化技術を構築することである. 初年度と次年度の成果:まず,各種磁界結合方式(誘導結合と2種類の共鳴結合)の信号伝送損失特性を解析した.信号伝送損失の周波数特性を求めた結果,誘導結合方式で損失が最小となる周波数帯は2~3 MHzであることと,共鳴結合方式の一つでは,設定した共鳴周波数2 MHzにおいて送受信距離に関係なく信号損失を20 dB以上改善できることを示した.次に,各方式の等価回路モデルを作成・解析し,共鳴結合方式の共鳴周波数特性の最適設計の指針を得た.最後に.各結合方式の通信路インパルス応答を算出し,通信特性を評価した.2種類の共鳴結合は,適応等化技術を用いると,BER=0.001を実現するSN比で,それぞれ9.0~21.5 dB程度雑音特性が良好になることを確認した.また,生体への安全性についてもICNIRP ガイドラインに基づき検討を行い,信号電圧1 Vの場合,体内電界強度は一般環境制限値より2桁以上,局所SAR は4桁ほど小さいことを示し,磁界方式は生体への安全性が非常に高いことを明らかにした.さらに,Lセクションマッチングネットワークを用いた2コイル無線電力伝送システムについて検討し,送受信コイルの位置に応じた相互インダクタンスを動的に推定することによって,その位置関係における最適な電力伝送効率を実現できる可能性を示した. 最終年度の成果:実際に磁界方式人体通信機を試作した.送信機はDE1-SoC FPGAボード,受信機はLPC-Link2を用いて開発した.変調方式はQPSK,通信速度は500kbpsである.実際に送受信実験を実施したところ,20cmまで通信可能であることを確認した. このように,磁界方式人体通信の実用化技術に関する各種成果を得ることができた.
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