本年度は階層型システムの評価のために、これまでの基本的判別手法の被験者実験に加え、総合的システムとしての考察を行った。 ①4音声メニューの選択判別の精度向上のために、昨年度までの経験的モード分解(EMD)に基づいた手法を引き続き検討した。各測定電極位置の脳波から得られるEMDの固有モード関数を被験者ごとに評価する方法では最高判別率は75%であった。 ②継続的な4音声メニュー刺激実験結果から、メニュー文言に依存する特性が考察されたため、先頭音節依存性に関する検討を継続した。これまで有声音・無声音分類で傾向が見られていたが、音声的分類ではなく音声信号上の特徴解析が必要であることと結論した。 ③本システムの判別手法として機械学習を取り入れ、転移学習を利用した判別を試みた。本システムで用いた4音声メニュー呈示を機械学習に適用するためには、十分な学習データを得ることは困難である。そこで公開されているP300成分を含む脳波データセットを利用してソースドメインとし、本検討により記録した脳波データをターゲットドメインとして転移学習による判別を試みた。学習特徴量としてEEG共分散行列の接ベクトル空間投影を利用した。 この判別ではメニュー呈示5試行の同期平均波形を解析単位とした。オフライン解析による判別の結果、比較基準としている4音メニュー実験の20試行同期平均波形に基づいた判別率に比べ9被験者平均が30%から70%に向上し、最高判別率は80~90%が得られた。 ここまでの総合評価として、音声メニュー2階層の成功率は約65%であり、3階層を構成すると50%程度と推測される。階層化システムにおいて最終的なユーザビリティの向上には、1階層単位の判別率向上に加え、運用上の工夫として誤選択時の適切な修正手段が必要で、その一例としてクリック音など音声以外の選択肢で修正モードとする手法を提案する。
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