研究課題/領域番号 |
18K12161
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
佐藤 満 昭和大学, 保健医療学部, 教授 (10300047)
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研究分担者 |
山下 和彦 了徳寺大学, 健康科学部, 教授 (00370198)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 足底感覚 / 高齢者 / 転倒予防 / 運動介入 |
研究実績の概要 |
高齢者が要介護状態となる主要な原因のひとつである転倒に、足底感覚機能の低下が関与している可能性が高いが、その寄与についての研究は乏しい。本研究課題は、介護保険サービスや自治体の介護予防事業で行われている転倒予防運動が低下した感覚機能を改善させるかどうか、あるいはどの程度改善させるかを定量的に把握することを目的としている。それによって、感覚機能に関する治療的裏付けが曖昧であった転倒予防運動の臨床的根拠をより確かなものとして、より効果の高い治療的運動の理論と手法を確立することを研究実施期間内の目的としている。 本年度は、足底感覚閾値のほか、下肢筋力や歩行機能、立位バランス等の測定を実施済の介護保険の通所介護施設4ヶ所の利用者124名を対象に、測定後1年間の転倒事象の有無と頻度を調査し、足底感覚や運動器の機能が将来の転倒にどの程度関連するかの前方視的調査研究を継続して実施し、予定数のデータ採取を完了した。このデータより、要介護・要支援高齢者の足底感覚や運動器検査項目の標準的な値やその分散、転倒事象との関連を検証する知見が得られている。 次に、通所介護施設の新規利用者を対象として、各通所介護施設で行われる転倒予防を目的とした個別機能訓練によって、足底感覚や運動器の機能、転倒事象発生がどのように変化するかを追跡する研究を進めるに当たり、複数の通所介護施設で実施される運動介入方法の統制の可能性や、対象者の割り付け可能性を検討した。転倒予防運動の種類や負荷量が概ね統制可能で、転倒予防運動を実施しない利用者も一定数存在する施設の選定を行った。これにより、足底感覚機能の変化を明らかにする研究実施方法が確定し、研究代表者所属組織の研究倫理審査申請を行った。なお、新型コロナウイルス感染症の発生により、研究の実施は現在のところ無期限で見合わせている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
足底感覚、下肢筋力、歩行機能、立位バランス等の測定を実施済の介護保険の通所介護利用者124名の転倒事象の有無と頻度から、転倒群と非転倒群の各測定値の標準的な値とその分散を定量化したほか、転倒事象と測定項目間の関連をロジスティック回帰で分析し、筋力や歩行能力より、足底感覚低下が転倒事象と最も関連が強い結果を得た。これらの成果は論文として投稿し、採録となっている。 本年度に開始を予定していた転倒予防の運動介入によって生じる足底感覚や運動器機能の変化の定量化の研究は、本研究自体で運動介入を設定し、無作為に割り付けるという当初計画していた研究手法が実施困難であることが明らかとなり、研究計画の変更を余儀なくされた。これは、研究実施施設を転倒者と非転倒者が混在する対象者群が期待できる通所介護施設に設定しているが、その利用者は要介護者と要支援者が大半を占めており、介護給付または予防給付を基に当該施設を利用しているため、それぞれ個別にケアプランが設定されており、その中で転倒予防介入の必要性がある程度規定されていることから、転倒予防介入の無作為割り付けが困難であったことによる。また、複数施設の利用者の参加を仰いでいるが、各施設での設備品の差などから転倒予防の運動介入の種類と量を完全に一致させることも困難であった。運動介入法を厳密に統制することが難しいため、研究対象者である通所介護施設新規利用者のうち、転倒予防運動を実施する者としない者とを比較する研究デザインとすることとした。比較対象の評価項目も足底感覚機能の他、筋力や立位歩行機能のテストや足部動揺の大きさなどが選定され、予定より大きく遅れたものの運動介入による研究実施計画が確定し、倫理審査を経て、研究実施が可能な体制となっている。
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今後の研究の推進方策 |
転倒予防の運動介入による足底感覚機能の変化と転倒予防効果への寄与の定量化に関する上記の研究は、現在のところ新型コロナウイルス感染症の発生により実施を完全に見合わせている。実施予定の通所介護施設は本報告書の作成時点(2020年4月下旬)では、すべて営業を継続しており、概ね通常営業の形体でサービスが提供されている。しかし、上記の研究実施計画では対象者へのインフォームドコンセントや同意取得、大半の機能測定の実施は研究代表者が行う予定となっている。各施設では感染予防の観点から部外者の立ち入りを極力制限している状態にあるため、研究実施を自粛という形で見合わせている。また、ほぼ通常に近い営業を継続している施設でも、通所介護利用による感染リスクを警戒して利用者の3、4割は欠席している状況であり、上記計画の対象となる新規に利用を開始する方も大幅に減少しているため、新型コロナウイルス感染症のある程度の収束を待たないと研究実施は難しい状況にある。なお、通所介護施設の管理者からは、感染者数が減少に転じるなど、社会的に理解が得られる状況になった際には速やかに研究を再開する旨の許可を得ている。 上記の研究実施を見合わせている間は、先立って取得した通所介護利用者124名の足底感覚やその他運動器の機能測定値と、測定後1年間での転倒事象の有無と頻度の調査結果から、足底感覚機能が将来的な転倒を予測できるかどうかの前方視的な分析を行う。結果がまとまり次第、その成果公表のための作業に期間を費やす予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
足底感覚閾値を計測する足底感覚計は、研究実施施設の増加により現有品では不足すると見込まれたため、1台を新規購入する費用を計上していたが、研究実施が一時中断しているため、購入を見合わせている。また、状況によっては現有品のみで測定ができる可能性もあるため、次年度に改めて執行を検討する。その他に通所介護の各施設で転倒予防運動に必要な機材が不足している際には、消耗品として補充する費用を計上していたが、これも研究実施を一時中断しているため、新型コロナウイルス感染症収束後の研究実施の再開に際して改めて執行を検討する。
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