高齢者の転倒リスク判定は単一の検査ではその精度に限界がある。本課題の先行研究では、足底感覚低下が高齢者の転倒に関与していることを明らかにした。本課題は介護予防事業等での転倒予防運動が、足底感覚をどの程度改善させ、転倒減少にどう寄与するかを検証して、治療的裏付けが曖昧であった感覚機能向上運動の臨床的根拠を確かにすることを目的としている。初年の2018年度には、将来の転倒予測に有効な足底触覚閾値測定法を110名のデータを基に検討し、2019年度は、運動プログラムの適切な内容とその成果測定法を総合的に検討する予備測定を行い、最終の2020年度から通所介護施設3カ所を新規利用する高齢者を対象に、運動プログラム参加前後で足底感覚や運動機能、転倒発生数がどう変化するかを検証する計画であった。しかし新型コロナ感染拡大の影響で、施設の新規利用者が大幅に減少し、外部からの研究者の出入りも制限され、研究実施が困難となった。 期間を延長した2021年度は、通所施設の利用率はやや回復したが、外部研究者の出入りは憚られ、施設職員に測定を依頼する形で、新規利用者・継続利用者を問わずにデータ採取を開始した。しかし8月からデルタ株感染者数が急拡大し、運動プログラムを継続実施できなかった例や、3カ月後の成果測定ができない事例が多発して、分析に資するデータ採取はできなかった。 さらに研究期間を延長した2022年度は、当初計画の運動プログラム種別の統制は諦め、新規利用者に限定して週1回以上の実施頻度を確保した上で、3カ月か6カ月の固定期間での成果測定研究を模索した。しかし6月にオミクロン株による感染者が激増し、再び新規利用者が減少し、毎週の運動プログラム実施率でも基準を満たさない者が多発した。感染者数が下げきらぬまま11月に第8波が訪れた段階で、研究計画の遂行は困難と判断し、本研究実施を断念した。
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