研究課題/領域番号 |
18K12163
|
研究機関 | 西九州大学 |
研究代表者 |
小野 博 西九州大学, 健康福祉学部, 客員教授 (10051848)
|
研究分担者 |
坂田 俊文 福岡大学, 医学部, 教授 (10289530)
高橋 伸弥 福岡大学, 工学部, 准教授 (40330899)
森山 剛 東京工芸大学, 工学部, 准教授 (80449032)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 音声合成 / 補聴方式 / 子音の強調加工 / 音素のすげ替え / スマートフォン / エーアイスピーカ / 音声認識 |
研究実績の概要 |
現在,市販されている補聴器は雑音低下等の音響処理はなされているが,環境騒音や残響音を完全に取り除くことはできず,また,活舌が悪い,口を大きく開けてしゃべらないなど難聴者にとって聞き取り難い話者の音声は従来技術による音響処理では聞き取りの改善に限界がある。その結果,日本における難聴者の補聴器装用率は欧米に比べ非常に低いのが現状である。 本研究の目的は,音声認識・音声合成を利用し,音声が明瞭に聞き取れる補聴方式の確立にある。補聴器を必要とする軽度・中等度難聴者は,高域周波数成分の聴力低下や,音圧分解能,時間分解能の低下等によって音声が聞き取り難くなっている。しかし,これらの難聴者は,全ての音声が聞き取れないのではなく,高域周波数成分が多い破裂子音や分解能の低下による鼻子音などの子音の聞き取りが低下し,時には単音を聞き間違え,異聴を起こすことがある。その結果,会話中の単語が明瞭に聞き取れないことや語頭の音声(単語)が聞き取れないと会話全体の意味が理解できない場合があることが知られている。 そこで,本研究では,事前の検査結果で聞き取り難いと予想された単音(音素)を含む単語のみを明瞭性の高い合成音声で出力する方法で難聴者の聞き取りの改善を行う補聴方式の開発を目指した。 さて,最近の合成音声は音質が非常に向上し今後もさらなる改善が期待されている。合成音声を利用した個別難聴者の聞き取り検査結果に対応した子音の音素の特性の強調加工や,異聴する場合には他の子音の音素にすげ替える手法で、難聴者の聞き取りが大幅に改善されることを確かめた。この際,子音の聞き取りの改善に効果的な強調加工法は,①子音の音素の音圧の拡大,②音素の持続時間の伸長,③子音と母音間への無音時間の挿入,④話速変換の実施や,他の音声に聞こえる場合は,⑤異聴する音素のすげ替えであることを聞き取りの改善によって確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
環境騒音や残響音を全く含まない音声合成を利用して,音声の明瞭性を高めた補聴方式を実現するためには,個別難聴者にとって聞き取り難い音声の改善策がルール化できるかが鍵である。しかし,合成音声の子音の音素の構造(音圧、ピッチや持続時間等)は,統一された規格がないため,合成した音声も音声合成器(個別話者モデル)によって大きく異なり,難聴者への聴き取り検査結果も,合成音声器によって異なることが予想された。 一方,複数の合成音声器による予備調査によって,音素の音圧の拡大,持続時間の伸張などの強調加工処理が聞き取りの改善に役立つが,合成音声器によってそのルールが異なることが予想された。また,子音の音素の特徴を強調し過ぎると,その音声に違和感を覚え,不快であったり,不自然であったりして,難聴者にも好まれなことが分かった 今回の研究において,2つの大きな進展があった。1つは,複数の合成音声器を利用した音声の聞き取り検査によって,難聴者の音声の聞き取り難さや聞き間違え(異聴傾向)は合成音声器によって異なることを確認した。このことにとり、合成音声を利用した補聴方式の実現のためには,各音声合成器ごとに作成した音声を用いて音声の聞き取り検査を実施し,その結果に基づいた子音の音素の強調加工や音声のすげ替えを行えば,合成音声を利用した補聴方式が実現できることが確認された。2つ目は、聞き取り難い子音の音素の強調加工は音声の聞き取りの向上に大きな役割を果たすが,強調し過ぎると,かえって不快になることから,補聴方式として,個別難聴者ごとの聴き取り検査で,最適な強調加工範囲を測定すればよいことが分かった。これらの2つの成果を利用することによって,合成音声を利用した補聴方式の実現性が高まった。
|
今後の研究の推進方策 |
難聴者の聞き取りを改善するため,個別難聴者ごとに,利用する合成音声器で子音の音素の聞き取り検査を行い,その難聴者用にとっての合成音声による聞き取りの改善ルールを作成する必要がある。そのため,利用する合成音声器で不快にならない程度の子音の音素の加工度合いの限界や異聴する子音の音素のすげ替えを実施するための検査方法の確立と検査装置の試作を行う。利用する合成音声器についての検査項目は,①子音の音素の音圧の拡大,②子音の音素の持続時間の拡張,③子音と母音間への無音時間の挿入,④話速変換を利用した話速の緩和について、不快にならない範囲の強調加工度,及び,⑤子音(音素)のすげ替えのための異聴の検査を実施する。検査結果に基づきそれらの単音を含む単語音声を合成し聞き取りの向上を確認する。 さらに,入力した話者の音声を音声認識し,個別難聴者が聞き取り難いと予想される子音が含まれている単語について,強調加工やすげ替えによって,明瞭性が高い音声を合成音声で出力する補聴方式を確立し,補聴システムを試作する。 この補聴方式の特徴は,高度・重度難聴者には,全ての入力音声について,聴き取り検査に基づいて子音の音素の強調加工や子音の音素のすげ替えによって,これらの難聴者の聞き取りの改善を目指すものである。また,軽度・中等度難聴者は,全ての音声(単語)が聞き取れないのではないことから,聞き取り難いと予想される子音の音素を含む単語音声のみを合成音声で出力する補聴方式としたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
旅費は実績払いのため,実際に利用した額が事前の計画より少なくなったので,旅費の一部が残った。残金は次年度の旅費に組み込む予定である。
|