視覚障害者のために,超音波スピーカを応用して高指向性の可聴音波を生成し,使用者の反響定位(エコーロケーション)の修得を支援することで自由な移動を可能とする歩行支援装置の開発を最終目的とする。本研究は,上記の高指向性可聴音波を障害物想定の物体に照射し,その反響音から障害物材質の判別を行うこと,および材質判別を容易にする音波パターンの作成を目的とした。 平成29年度は,40kHz超音波を搬送波として10Hz方形波でAM変調することで,高指向性可聴音波を生成し,障害物想定の板材として大きく剛性等が異なる鉄板,ベニヤ板,スタイロ板(発泡スチレン材)の3種を用いて,材質ごとの反響音についてFFT音響解析を進めた。その結果,10Hz方形波の高調波成分の一部で,材質による違いが現れることが判明し,これについて平成30年度電気・情報関連学会中国支部連合大会で報告した。ただし,聞き分けるには高調波成分に大きな差が出ないため,変調波信号改善を行った。 令和元年度以降は,前述の差異が見られた高調波成分について,該当成分を強調する様に変調波信号を作成し,同様に反響音のFFT解析を行った。また別手法として,よりも広い周波数範囲で高調波成分を得る連続インパルス波についても,同様に反響音の音響解析を進めた。高調波成分強調の変調波では,方形波の場合より材質による違いがFFTに明確に出る様になった。また,連続インパルス波による変調については,同等に材質による違いが見られた。しかし,どちらも材質判別を聞き分けで行うに十分な差異ではなかった。これらの結果については,令和2年度電気・情報関連学会中国支部連合大会および令和3年度同大会発表の一部で報告した。 現在は障害物想定の板材に,布材を貼り付けた板材を用いて反響音解析を進めており,令和4年度電気・情報関連学会中国支部連合大会において報告予定である。
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