本研究では,歩行に伴う上肢運動が歩行安定性や歩容変化に及ぼす影響を明らかにするとともに,脳卒中片麻痺患者に対して,麻痺側の上肢と下肢の協調運動をアシストする麻痺側用装着型ロボットの開発を目的として研究を行った. 両腕を積極的に用いて歩行した場合と片麻痺上肢の拘縮状態を模擬した場合での歩行を比較し,上肢運動による歩行特性の違いを検証した結果,最大歩行速度時において,両腕を使った歩行の方が,片腕を拘束した歩行より高いHarmonic Ratio(HR)値を示した.HRの上昇は,歩行時における上肢運動が歩行の滑らかさ・安定性に関与している可能性を示していることから,歩行における上肢運動(腕振り動作)の重要性について明らかにした. また,麻痺側に対する上肢・下肢協調運動支援システムの実現のため,モータとワイヤ巻取り機構を備えたパワーユニットを製作し,肩関節の屈曲・伸展動作の支援を行うアシストウェアを開発するとともに,下肢運動支援用アシストロボットとシステム統合に成功した.さらに,神経振動子を用いた同調制御手法を改良することで,上肢・下肢の協調運動を実現するための制御アルゴリズムの構築を行った. 片麻痺を模擬した被験者による歩行アシスト実験では,開発した上肢・下肢協調運動支援システムの有効性を検証するため,健常者の通常歩行/片麻痺模擬歩行/下肢運動支援歩行 (片麻痺模擬状態で下肢ロボティックウェアのみを装着)/上肢・下肢協調運動支援歩行(片麻痺模擬状態で開発システムを装着)条件の10m歩行テストを行い,4つの歩行条件の比較実験を行った.その結果,従来手法である下肢のみの歩行支援と比較した結果,開発した上肢・下肢歩行支援手法適用時の歩行速度が有意に向上し,さらに歩行の安定性を評価するHRも向上する傾向が見られた.
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