研究課題/領域番号 |
18K12170
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研究機関 | 公立はこだて未来大学 |
研究代表者 |
三上 貞芳 公立はこだて未来大学, システム情報科学部, 教授 (50229655)
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研究分担者 |
浜 克己 函館工業高等専門学校, 生産システム工学科, 教授 (00180927)
中村 尚彦 函館工業高等専門学校, 生産システム工学科, 准教授 (30435383)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 片麻痺 / リハビリテーション支援ロボット技術 / 手指 / 運動分離 / 巧緻性評価 / 筋音 |
研究実績の概要 |
本研究は.回復期以降の片麻痺患者の在宅での継続したリハビリテーションを,患者自身が,自宅等で療法士等のサポートを必要とせずに自ら実施するための自動化装置の実現を目指すものである.具体的には,(1)手指を対象としたリハビリ機能を自動化する装置の開発と,(2)装置を用いた手指の動作のセンシングから,患者の回復度・あるいは麻痺の程度を自動診断し患者に提示する方法を明らかにすること,の2点からなる.2019年度は手指の持ち上げアシストに関する従来の問題を解決する新しい機構を発案・検証し,回復度のより妥当な評価方法の問題に対して,手指の不随意運動をより詳細に考慮できる評価手法,および非接触で複数の筋活動を同時に測定する方法による回復度の評価の可能性について,以下のような成果を得た. (1)麻痺手指を持ち上げアシストする機構については,従来は家庭向けの小型の機構に収まる十分な持ち上げ力とストロークを発生する適切な装置は提案されていなかった.今期はこれに対して,「多重スクリュードライブ」と呼ぶ新たな機構を発案し,非稼働時には短い長さに収まりつつ,進展時には手指を十分な力と持ち上げ角まで押し上げる機能を実現できた. (2)手指の不随意運動の程度から回復度を評価する方法については,昨年度発案した複数の手指を同時に使ったタスクの提示による評価手法に対して,そのデータを統合して回復度を健常者との類似確率として導出する手法を提案し,実験により妥当性を占めることができた. (3)昨年度新たに提案した,変位MMGと呼ばれる筋活動に伴う表皮の機械的変形度合いの測定を用い,リハビリ中の複数の筋の同時活動を測って回復度の定量化を目指す方法については,今期は健常者の時系列との相違度をもとに,患者の時系列が健常者とどの程度異なっているかを求める方法を明らかにし,実験を通じてある程度の妥当性を得ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は (1)研究者らが開発している手指リハビリ支援装置のリハビリ効果の検証,(2)患者に自動提示する麻痺回復度のより詳細な導出モデルの開発,(3)家庭でかつ多様な段階の患者に利用できるような機構の開発,を当初目標として進めている. 今期は(2)に関して,昨年度見いだした新しい知見を検証し,リハビリ指標として使えるような評価値を求める手法を明らかにしてきた.具体的には,手指をのせるセンサプレートのみによって手指巧緻性を測定できるような作業指示の方法について,具体的にそれにより得られた時系列の力信号を統合して,健常者への近さの度合いを確率として得る手法を明らかにすることができた.さらに変位MMGを用いて伸筋屈筋の同時緊張の程度を測定する方法については,健常者の代表的な時系列信号との差異を求める方法により,健常者との近さの指標を得る方法を明らかにできた. また今期は(3)のリハビリ機器の設計に関して大きな進展があった.家庭に設置する装置で十分な手指の持ち上げアシストを実現する方法としては,減衰比が極めて高いスクリュードライブ方式が望ましいが,装置の高さの制約から十分なストロークが取れず,手指の十分な進展イメージを提示できないというジレンマがあった.これに対してスクリュードライブを多重にする設計を見いだし,実際にリハビリハードに導入し,さまざまなステージの患者へ適用して持ち上げが十分に行われることを確かめることができた. 以上のように,各課題への取り組みの成果が上がっており,研究は順調に進んでいるものと判断している.
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今後の研究の推進方策 |
(1) 2019年度は,リハビリハードウエアのアシスト部分については家庭に置くことができる十分な機能を実現できる機構を完成できたものと考えている.一方で家庭に設置し長期実験を行ってもらうためには,リハビリ手順および回復度評価の提示方法を確定させなければならない.本方式に対応するようなリハビリ手順は現時点では知られておらず,実験および療法士の経験を調査して確定させたいと考えている.また回復度評価については,その信頼性の提示および繰り返し測定することによる信頼性の変化を提示することも考慮する必要がある.本リハビリ支援システムは家庭での「訓練」を目的としたものであり,エンターテイメント性を持たせてしまうと本来の「訓練」の意図が失われ,機能回復の目的を果たせない恐れがある.継続を促すための仕組みの検討も残されている.繰り返し測定による信頼度の向上度合いの提示は,継続の動機を持たせる仕組みとして有用と考えており,実装と検討を進めたい. (2) 2020年度は新型感染症の拡大のため,被験者の患者に実験者が直接触れるような実験はなるべく避けるべきであるため,前期の段階で装置を家庭に設置できるような完結したハードウエアとして完成させ,患者家庭に装置のみを設置してもらい,継続して利用してもらうことによる回復効果について機械的にログを取る方法で実験を進めてゆきたいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
(状況)新型感染症の拡大に伴い予定していた複数の出張がオンライン発表になり次年度使用額が生じた. (計画)一方,2019年度に研究の一部が当初より進展し,家庭に置くことができるリハビリ装置を早期に作成できる見込みが立った.2020年度は人との接触をなるべく減らした実験が望まれるため,リハビリ自動化装置を当初予定よりも多い台数作成し,これを協力被験者の自宅等に設置し遠隔で実験のモニタを行う計画を立てている.そのための作成費として,上記の次年度使用額を使用したい.
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