研究課題/領域番号 |
18K12172
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
原口 真 大阪工業大学, 工学部, 講師 (80467547)
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研究分担者 |
石田 圭二 福井医療大学, 保健医療学部, 准教授 (20446157)
酒井 涼 福井医療大学, 保健医療学部, 助教 (80771857)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | リハビリテーションロボティクス / 起立動作 / 機能回復 / 機能維持 / 福祉装置 / 介護予防 / 力制御 |
研究実績の概要 |
膝と骨盤部を動的に支持することによって,自然な立ち上がりを支援可能な装置を開発している.対象は脳卒中患者や高齢者である.研究室では,従来の起立支援機は後方から移乗可能なものを製作していたが,2018年度は療法士の意見に従って,前方から移乗可能な起立支援機の試作機を製作した.前方移乗型起立支援機により,椅子が不要になる,訓練時の安定感が増すなどの改善ができたが,いくつか課題が残ったため,その問題点を主に2019年度に修正した.2019年度に行った研究実績は大きく分けて5つある. (1)2018年に製作した前方移乗型起立支援機に受動的な機械部品であるガススプリングを追加した.製作した試作機を稼働させたときにアクチュエータの力不足と装置の自重により,ロボットアームに予定していた力を発生させることができなかった問題点を解決した.ガススプリング追加によりアクチュエータのW数を増価させることなく,ロボットアームの発生力を向上させることができるようになった.また副次的に,装置が振動していた問題や装置の剛性が低かった点もガススプリングを追加することで改良することができた. (2)前方移乗型起立支援機には利用者の安心感を確保するために背もたれを搭載したが,実際に使用した際,背もたれが骨盤に追従せず,背もたれの機能がうまく機能していない問題点を機構学的に解析した. (3)起立支援機の位置・速度・力を算出するための式を整理した.さらに,ラグランジュの運動方程式から装置の運動方程式も算出した. (4)6軸力センサを購入し,またMatlabによりアドミタンス制御の制御系を組むことにより,装置を力制御するための準備を行った.カウンターウェイト等自重補償機構の検討も行った. (5)後方移乗型・前方移乗型に加え,側方から移乗することで移乗や脳卒中片麻痺患者の訓練のし易さを向上させた側方移乗型を提案し,設計を進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度に(開始から1年以内に)後方移乗型起立支援機を製作できたのは大きな進捗であったが,実際に訓練者が利用するとなると様々な問題があった.この問題を解決するためにガススプリングを追加したが,結果的に広範囲に渡り有益な効果をもたらした. (1)まずガススプリングを追加することで抗重力運動をするリハビリテーションロボットのW数を節約できることが分かった.本質的な安全のためにはモータの撤廃がよいが,自らの身体を十分に動かせない訓練者にとっては,受動的な装置は活用が難しい.そこでできるだけW数が小さなモータを使うべきであるが,人間の立ち上がり動作は大きくW数を消費する(力も速度も必要)ため,矛盾した設計仕様となっていた.しかしながら,受動要素であるガススプリングにて,利用者や装置の自重を補償できたため,W数を抑えることができるようになった. (2)これまで剛性の確保やハード的な可動域制限のために,装置にはリニアアクチュエータを用いてきたが,直動的な動きを行うガススプリングを追加することで,一般的な回転式モータを活用できるようになった.リニアアクチュエータは制御式が複雑であり,かつ,立ち上がり動作に使用できるスペックのものは少なかった.しかし,ガススプリングの採用により,回転式アクチュエータを用いることができるようになったため,汎用なスペックでモータを選定でき,制御式や機構設計を簡単にすることが可能となった. (3) ガススプリングには復元要素だけでなく,ダンパ要素もあるため,装置の振動も抑えることができるようになった.振動を加速度センサで測定してみたが,振動はガススプリングを搭載する前に比べて,半分以下の加速度に減衰していた. 以上,ガススプリングを追加することによって,3つの大きなメリットが生じ,起立支援機のみならず,今後研究室で開発する福祉機器の設計に大きく貢献することができた.
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今後の研究の推進方策 |
下記の3点を主要な課題として,2020年度は進めていく. (1)後方移乗型起立支援機にガススプリングを追加した際の力の計算式や運動方程式を整理する.ガススプリング関連に集中し,背もたれの不具合についてはその後に解決するものとする.後方移乗型起立支援機の修正設計にあたっては定期的にリハビリテーション病院の療法士の方に使用感を確認してもらい,洗練していく. (2)後方移乗型起立支援機は位置制御しかできないが,訓練者の効果的なリハビリテーションのためには力制御が必要である.そのため,力制御も可能な側方移乗型起立支援機を設計する.6軸力センサと回転式アクチュエータ,角度計,制御基板,バッテリー,ガススプリングの設置を設計に盛り込んでいく.回転式アクチュエータにはDCブラシレスモータにハーモニックドライブ減速機を追加する予定である.一度に全体の機構を開発するのが難しいときは,まずは膝部分を中心に設計を行う.後方移乗型を同時並行で改良していくが,その改良点を側方移乗型にも随時フィードバックしていく.Matlabによる力制御系も連動させていく.側方移乗型起立支援機の新規設計にあたっても同様に,定期的にリハビリテーション病院の療法士の方に使用感を確認してもらい,洗練していく. (3)対外的な発表としては,学会発表を1件だけ行っているが,不十分であるため,国際学会の発表1件,原著付き論文への投稿を1件ないし2件,実施していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
ガススプリングの追加や装置の理論式の整理に,研究の重きを置き,装置の修正にあまり資金を要しなかったためである.研究代表者が所属する大学を(福井から大阪へ)異動したため,研究室環境を整えるのに労力が割かれ,当初よりも研究が進まなかった面も否定できない.従来の研究分担者(福井在住)である療法士の方とも相談する機会が激減したため,装置の修正に歯止めがかかったところもある.理論式がある程度固まり,研究体制も整ってきており,さらに新しい試作機である側方移乗型を考案したので,2020年度は側方移乗型の試作に残りの予算をあてる.
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